今回インプレッションを行うのはオリスが2020年に発表した「ダイバーズ65 コットンキャンディ」。パステルカラーの文字盤とブロンズ素材の外装との組み合わせが斬新な1本だ。ブロンズ特有と言えるエイジングの模様をお届けするとともに、ファッションのコーディネートを考えてみた。
Text & Photograph by Tsuyoshi Hasegawa
2023年4月8日掲載記事
装いに添えるエイジングとカラー文字盤の妙
ファッションにおいて注目を集めるポイントには「華やかさ」や「存在感・味わい」がある、と個人的には思っている。多様性時代にこんなことを言うとズレてると思われるかもだが、前者は女性的で、後者は男性的なイメージだ。
ともあれ筆者は顔立ちやパーソナリティの問題が多分にあり、「華やかさ」より「存在感・味わい」方向にて個性の演出を図ろうと考える人間だ。そういう意味で今回のインプレッションは非常に興味深いモノとなった。
オリスの話題作「ダイバーズ65 コットンキャンディ」は、2020年にブティック限定発売にて即完売を記録した「オリス ヘルシュタイン エディション2020」と同じく、ケースやベゼル、リュウズにブレスレットまで、すべて鋳造ブロンズを用いたモデルである。
これまでにもケースをブロンズ製とした時計はいくつか存在した。しかしブレスレットまでブロンズというモデルは恐らく稀少だ。
ブロンズは酸化しやすく長期間の使用により緑青(ろくしょう)を浮かす特性がある。緑青とはいわゆる「銅サビ」のことで、酸化により発生する青緑色の被膜であり、塩基性炭素銅や塩基性硫酸銅などの化合物が主成分。その昔は害アリなどと言われたものだが、近年厚生労働省から改めて無害な「普通物」であるとアナウンスされている。
いずれにしても、その緑青は程度により衣服に付着することもあり、ゆえにブレスレットモデルがリリースされにくい事情があるのかと推察する。しかし着用していくことで深みを増して見えるブロンズ時計は、「存在感・味わい」を大事にするファッション・フリークにはたまらない存在だ。
しかもベルトの付け替えが容易かつカジュアルな装いがメインという理由で、昨今NATOバンドばかり偏重している筆者にとって、フルメタル・フルブロンズの時計は非常にフレッシュで魅力的な1本なのである。
まず未使用の「ダイバーズ65 コットンキャンディ」は非常にきらびやかだ。遠目からは赤みの強い金無垢時計に見えないこともない。極力目立つことを避け、ソーッと生きてきた筆者には、このきらびやかさに少々臆するところもあった。
しかし今回のモデルは文字盤がスカイブルー仕様ということで、ゴージャスというよりポップな小物という感覚にて付き合うことも可能と考えた。
着用前はゴールドにも似た、きらびやかなルックス
ファッション界隈では「エイジング」というワードがある。つまり経年変化のことであり、レザー製品など使い込むことで、徐々に色が付いたり(もしくは落ちたり)くったり感や馴染み感が加わっていくアイテムに対し使われ、そこには“自分らしく育てていく楽しみ”があると考えられている。
調教こそは男の究極の趣味だ、などと言うツモリはないが、革ジャンや革靴を“育てる”ことに血道を上げるメンズは、筆者を含め少なくない現状がある。
さて、このフルブロンズ時計をファッション小物として考えたとき、コーディネートの手法として代表的であるのがカラー合わせだ。つまりこのブロンズカラーとそろえた色合いの衣服を着込んで調和あるスタイルを作ろうという方法。
筆者のクローゼットから選ばれたのはスエードのショートブルゾン。春先のアウターとして定番の一着であるが、ソフトなベージュカラーはオリスのブロンズ時計に近いトーンを持つ。合わせてみると非常に馴染み感も抜群なのだ。ただし文字盤に強いカラーを擁しているので、シャツやパンツは主張の控えめなカラーを選んで組んでみる。
カラーをそろえたスエードブルゾンとの着こなし
ことのほか好ましいコーディネートとなったので、数日このセットにてブロンズスタイルを楽しんでみた。
実際に使用してみて気づいたのは、思った以上にブロンズのエイジングが早いこと。着用から一週間ほどで、男らしい渋味(個人の感想です)が時計表面に浮き出てきたのである。10年ほど着込んできたスエードブルゾンと似たような味わいが、早くも見られたことには少々驚いた。
そこでこの「ダイバーズ65 コットンキャンディ」が持つポテンシャルをさらに模索しようと、お世話になっている業界関係者のところに持ち込んでみた。青山にある株式会社エスディーアイは、インポートの洋服類を扱う輸入販売企業であり、取材や展示会で何かと筆者が立ち寄るところ。
ここはハイセンスなスーツやコート、ニット類や靴・鞄を扱っており、今回はこのブロンズ時計にマッチするアイテムを求めてお邪魔した。特にカラフル文字盤に適合するポップなウエアが現在筆者のクローゼットには絶無であり、高感度アパレル企業におすがりしたいという気持ちがあったのだ。