37mmという控えめなケース径
本作が直径37mmという小さなサイズを実現できたのは、搭載するムーブメントのおかげ。ただし、直径26mmの5402ではなく、直径30.3mmの5400を選んだのは面白い。
理由は不明だが、ケースに対して大きなムーブメントを選ぶことで、理論上は時計の「頭」が軽くなるはずだ。ケースの「肉厚」は薄くなるが、それで200m防水を実現したのが今のチューダーらしい。
ブラックベイ 54のモチーフとなったのは、1954年に発表された「サブマリーナー(Ref.7922)」である。直径6mmという小さなリュウズや、あえて分目盛りが省かれた回転ベゼルはオリジナルにならったもの。また回転ベゼルに施されたフォントもやはりクラシカルだ。今風の角張った書体ではなく、少し丸みを帯びている。加えていうと、ブレスレットも昔風のリベットだ。
本作の採用するドーム風防は、非常によく考えられたものだ。曲面を大きくするとレトロになるが、斜めから見た際の視認性は悪くなる。レトロ風に曲面を強めつつも、しかし時間の見やすいドーム風防は、チューダーのセンスを感じさせる要素だ。
さらにいうと、見返しの高さを抑えることで、この時計は明らかにブラックベイ58とは違った印象を与える。ドーム風防の設計でいえば、チューダーとセイコーは頭ひとつ抜きん出ているように感じる。
とはいえ、これは単なるレトロウォッチではない。フラッシュフィットとケースの噛み合いは、さらに改善された印象を受ける。この部分のクリアランスが大きいとアンティークウォッチらしく見えたはずだが、厳密な噛み合わせは、この時計を2023年の新作としている。また、チューダー初となるラバーストラップも、ブラックベイ 54をモダンに見せる要素だ。
もっとも、フラッシュフィットとラグの上面をツライチにしなかったのはチューダーらしい。揃えてしまうと加工精度の高さは強調されただろうが、レトロ感は損なわれる。モダンには仕立てるが、し過ぎないさじ加減は相変わらずだ。
もうひとつ感心させられたのが、回転ベゼルのクリック感だ。ロレックスのような過剰なシステム(理論上は素晴らしいのだが)を採用していないにもかかわらず、クリック感は良く、もちろん表示精度も高い。当たり前といえば当たり前だが、シンプルな構造にもかかわらず、感触に優れたベゼルも、チューダーの魅力といえるだろう。
搭載するムーブメントは、文句の付けようもない。高効率な両方向巻き上げ自動巻きに、シリコン製のヒゲゼンマイと、フリースプラングテンプの組み合わせは、ショックや磁気に強く、もちろん精度も優れている。今年ブラックベイ(ブラックベイ 58ではなく、普通のブラックベイ)が採用したマスタークロノメーター仕様ではないが、価格を抑えたかったのかもしれない。
相変わらず刺さるプロダクトをリリースするチューダー。小さなサイズと魅力的なパッケージ、そして戦略的な価格を盛り込んだブラックベイ 54は、間違いなく万人にも受けるだろう。もっとも、本作が人気を集めることは間違いないはずで、入手は難しいだろう。
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