純セラミックスケースならではの軽さと、両面無反射コーティングによる高い視認性
腕に巻いた第一印象は、とにかく軽いということ。筆者が以前所有していた「Ref.3570.40」は42mmケースで150gだったが、本作は44.25mmケースで97gと、見た目の拡大に反して約35%ほど軽量になっているため、体感的にはもはや異次元の軽さだ。
レザーストラップ仕様でありながら、腕を振っても揺られることがなく、非常に安定したホールド感が得られるのも素晴らしい。ステンレススティール製のインナーケースを内包しない、純セラミックスケースの利点と言えるだろう。
そして、鏡面セラミック&鏡面インデックス文字盤にボックスサファイア風防という、乱反射を招きそうな組み合わせにも関わらず、直射日光下での視認性が高かったのも驚きだ。風防は両面に無反射コーティングが施されているが、光沢への着色が無く、非常に自然な風合いに見える点も、アンティーク時計好きとしては好感が持てる。
唯一の不満点は、着用時の自動巻きローターの回転音か。筆者がこれまでに経験してきた自動巻きの中では、圧倒的に騒音レベルが高い。これはベアリング構造が原因なのか、セラミックスケースの遮音性・吸音性に問題があるのか、分解検証してみないことには何とも言えない部分だ。
ユニークな同軸2針積算計を持つ、自動巻きクロノグラフキャリバー
搭載するキャリバーOMEGA9300は、コーアクシャル脱進機を備えた自動巻きクロノグラフムーブメントで、リュウズを1段引くと時針単独調整、2段引くと時刻調整が可能だ。
日付の単独調整機構が備わっていないため、大幅にずれてしまった際の調整には時針の単独調整機能を利用するしかなく、少々面倒な仕様となっている。ここまで無理して日付表示を盛り込む必要があったのかは謎だが、自動巻きである以上、デイリーウォッチとしての使用を想定するなら仕方の無い部分か。
針回しは、スピードマスタープロフェッショナルシリーズと比べると若干ゴリゴリとした振動を感じるが、筆者としては許容範囲のスムーズさだ。
本作はクロノグラフ機構もユニークだ。スピードマスタープロフェッショナルシリーズのように独立したの30分計と12時間計を持たず、3時位置のインダイヤルが、60分積算計と12時間積算計の表示を兼ねている。
クロノグラフの計測が進むと、時計の中に更に小さな時計が出現したような独自の見え方となるが、針同士のクリアランスが極度に詰められているため、メンテナンスを担当する時計師は針外しに相当な気を遣うだろう。
また、クロノグラフ制御にコラムホイールと垂直クラッチが利用された構造も、現行のスピードマスタープロフェッショナルシリーズとは異なる点だ。裏面を見ると、コラムホイール部分の受けがくり抜かれており、その周囲には「COLUMN WHEEL」と表記されている。
主張の激しさに少々笑ってしまったが、情報化社会の現代ではこれが訴求に繋がるほど、ユーザーが機械構造の違いを熟知しているということなのだろう。
リセット機構には、スタートプッシュでリセットハンマーをチャージするインダイレクトリセット方式が採用されている。本来なら、リセットプッシュが比較的軽めになる機構だが、押し間違いを防ぐためか、スタートプッシュと同等の重さを与えているようだ。
オメガの良心が詰まった、外装フェチのためのスピードマスター
今回のレビューでは、たっぷりと時間をかけて「スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン」を細部まで検証したが、見れば見るほど、その作り込みの異常さに驚かされる時計だった。
171万6000円(税込み)という価格は、スピードマスターシリーズにおいて決して安価な部類ではなく、ハイクラス向けの価格設定だ。しかし、現代の同価格帯スイス時計と本作の作り込みを比較してしまうと、むしろ安すぎるように感じる。
「持てる技術はすべて注ぎ込んでみました」と言わんばかりの商品作りを見るに、オメガという会社は、どこか日本企業に通じる姿勢があるのかもしれない。
筆者はこれまでにも、セラミック製の時計をいくつか触ってきた。しかし、本作と同等レベルに整った複合面を持つ時計は、オーデマ ピゲとリシャール ミル以外では見たことがない。
どちらも価格は本作の数倍・数十倍のレンジだが、ことセラミックス外装の仕上げ品質に関しては、価格差からは考えられないほどに肉薄している。
今回のレビューが半信半疑に感じられた人はぜひ、ブティックで実機を見てもらいたい。「なんじゃこりゃあ」と言いたくなる気持ちがわかるはずだ。
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