パテック フィリップ/ 永久カレンダー搭載クロノグラフ

Perpetual Calendar CHronograph [Ref. 5270]

完全自社製ムーブメントの現行モデル

永久カレンダー搭載クロノグラフ Ref.5270
永久カレンダー搭載クロノグラフ Ref.5270
2011年初出。搭載するのは自社製ムーブメントのCal.CH 29-535 PS Q。ベースムーブメントサイズの拡大と、秒針と積算計の位置を下げたことで、12時位置のカレンダー窓は拡大した。また4時半位置には閏年表示、7時半位置には昼夜表示が設けられた。実用性を重視した複雑時計であり、理論上は耐久性にも優れているだろう。手巻き。33石。2万8800振動/時。18KWG(直径41mm)。3気圧防水。1847万円。

 Ref.5970の後継機として登場した、2011年初出のRef.5270。大きな違いはムーブメントで、レマニアベースのCH 27-70 Qではなく、自社製のCH 29-535 PS Qを搭載する。先に述べたので、ムーブメントに関する詳細はここでは省こう。

 しかしCH 29-535 PS Qが、「この形」になった背景は少し説明してみたい。1990年代の半ば以降、パテック フィリップはカレンダー窓を可能な限り大きくしようと努めてきた。いうまでもなく、その理由は視認性の改善にある。正直、パテック フィリップの永久カレンダーや年次カレンダーに、視認性を求める顧客がいるとは思えない。しかしパテック フィリップは律儀にも、この課題に取り組み続けた。意図的にカレンダー窓を小さくした年次カレンダーの5396や5726を例外として、最近のパテック フィリップ製カレンダーウォッチは、いずれもカレンダー窓が大きい。

 CH 29-535 PS Qも同様で、曜日と月表示の窓は、従来までのCH 27-70 Qに比べて拡大されている。それをもたらしたのが、スモールセコンド針と30分積算針の位置である。CH 27-70 Qまでは、これらは3時位置と9時位置に置かれていた。しかしそれぞれを6時方向に若干ずらしたことで、カレンダーディスクが格段に大きくなったのである。スモールセコンド針と30分積算針の位置を下げた結果として、時計としての実用性が高まったことは間違いない。現在、こういった時計を求める層のほとんどはコレクターであろう。しかしパテック フィリップにとっては、仮にコレクターを対象にした時計であっても、実用性が絶対不可欠であるらしい。意匠の好みは分かれるだろうが、しかし使うという一事において、5270とは、パテック フィリップ史上、最も完成された永久カレンダー搭載クロノグラフとなったのである。

(左上)Ref.5970を思わせる、ラグを太らせたケース。ただしケース側面の張り出しは抑えられている。(右上)近年のパテック フィリップが好む、サテン仕上げの文字盤。Ref.3970の時代には及ばないが、一時期に比べて質感は大きく向上した。ただしこれはプロトタイプ。製品版までにはさらに改善されている可能性がある。また秒針と積算計の位置を下げたことにより、カレンダー窓がかなり大きくなった。ただしカレンダー窓のフチの造形にはもう一工夫が欲しい。(中)ケース側面。テーパーの付いたベゼルは、パテック フィリップの複雑時計に共通するディテール。ベゼルの先端にチムニー(煙突)状の部品を設けて、ベゼルの高さを抑えていることが分かる。(左下)6時位置のムーンフェイズ。基本的な造形は、Ref.3970やRef.5970に同じ。18KWGモデルでは、ブラッシュ仕上げの銀色を採用する。機構に原因があるのは分かるが、スモールセコンドと30分積算計のインダイアルの高さは、もう少し下げても良かったのではないか。(右下)搭載するCal.CH 29-535 PS Qは、パテック フィリップ史上の最高傑作だろう。“見せ場”はCal.CH 27-70 Qほど多くないが、クロノグラフとしての完成度は、かつてのモデルを大きく凌駕する。バランスに優れた実用機である。

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