DATOGRAPH UP/DOWN
スタイリングを完全刷新した新世代ダトグラフ
2011年初出。パワーリザーブを延長、テンプをフリースプラング化、6時位置にパワーリザーブ表示を追加したモデル。とりわけパワーリザーブの延長により、実用性が大きく高まった。ヒゲゼンマイもニヴァロックスから自社製に置き換えられ、等時性も向上している。直径は39mmから41mmに拡大。しかし重心を下げることで、装着感も改善された。手巻き(Cal.L951.6)。46石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約60時間。Pt(直径41mm)。30m防水。907万円。
ダトグラフが搭載するキャリバーL951.1は、第3世代で実用機としての完成を見た。しかし約36時間という短いパワーリザーブは改善されないままであった。これは1999年の発表時でさえ短かったし、各社のクロノグラフが約72時間という駆動時間を持つようになった現在となっては、かなり短い。
旧ダトグラフのパワーリザーブが長くならなかった理由を、A.ランゲ&ゾーネは「パワーリザーブの長さよりも、クロノグラフを作動させた際の等時性を優先させたため」と説明する。優れた等時性を得るため、香箱に巻き止め装置(マルテーゼクロス)を加えて、駆動時間を縮めていた。パワーリザーブは短くなるが、全巻き時のトルクが強い状態と、解け切る直前のトルクが弱い状態での使用を避けられる。理論上の等時性は高まるし、実際ダトグラフはその通りの性能を発揮した。
しかし2011年末に発表されたL.951.6では、パワーリザーブが約1.6倍に延長されている。筆者は関係者に対して、巻き止めを省いて駆動時間を稼いだのか、とたずねた。確かに予想通りであったが、もう少し芸が細かい。巻き止めを省略した分、香箱の高さが稼げるようになった。そこで主ゼンマイの高さと厚みを増し、また薄く仕立て直したという。ランゲの説明によると「巻き止めはないが、クロノグラフ作動時の等時性も旧モデルに勝る」。駆動時間が長くなれば、パワーリザーブ表示を付けたくもなるだろう。その回答が「アップ/ダウン」だ。
ケースサイズが拡大され、6時位置にパワーリザーブ表示が加わった新型ダトグラフ。意匠に対する好みは分かれるだろう。しかし実用性という観点から、筆者はこのモデルを大変に好む。また重心が下がった結果、ダトグラフの弱点であった装着感が、劇的ではないにせよ改善された点も好ましい。