アイコニックピースの肖像 IWC/ポルトギーゼ

PORTUGIESER AUTOMATIC Ref.5007 [2015]
新規開発の52系ペラトン式自動巻きを搭載

ポルトギーゼ・オートマティック Ref.IW500705
新規設計された自動巻きムーブメントを搭載する定番モデル。高い振動数やダブルバレルの採用により、等時性は非常に高い。また高精度を与えるために、巻き上げヒゲを採用するのはいかにもIWC流だ。外観は旧作とほぼ同じだが、インダイアルと日付表示のフォントがわずかに広い。そのサイズさえ許容できれば極めて優れた時計だ。自動巻き(Cal.52010)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。SS(直径42.3mm)。3気圧防水。145万円。

 2015年にポルトギーゼは、再び大きな進化を遂げた。自動巻きムーブメントを新規開発された52系に変更。携帯精度がさらに高まったのだ。

 大径のケースを持つポルトギーゼの強みとは、大きなムーブメントを載せられる点にある。そのためIWCの技術陣は、ポルトギーゼ用のムーブメントを刷新するにあたって、省スペース化を一切考える必要がなかった。結果新しい52系は、部品の配置に悩まされることなく理想的な設計を採用できた。

 従来の50/51系キャリバーとの決定的な違いは、香箱がふたつに分割された点。それぞれの香箱を小さくしたことで、ムーブメントの中心にはスペース的な余裕が生まれた。そこでIWCは、ペラトン式の自動巻きを手巻き機構と融合させて、ムーブメントの中央に置くことができたのだ。シングルバレルの場合、大きな香箱に巻き上げ機構の輪列が干渉して、こうしたレイアウトは採用できないはずだ。

 また香箱が小さくなった結果、輪列の取り回しにも無理がなくなった。無駄な中間車を減らせた結果、新しい52系の輪列はトルクロスを大きく減少させている。主ゼンマイの総トルクは、従来にほぼ同じ約2200g・㎜(正しくは1150g・㎜×2)。にもかかわらず、高振動化に成功した理由は、ゆとりあるレイアウトと、それがもたらした高効率な輪列のためと言える(理論上はトルクを約 1.8倍まで増やさないと、2万8800振動/時にはできないはずだ)。またペラトン式自動巻きの〝爪〟と巻き上げ中間車、そしてローター芯をセラミックスに替えたことで、巻き上げ機構全体の耐久性も大幅に向上している。

 今から70年以上も昔に、マリンクロノメーター級の精度を持つ腕時計という注文を出したふたりのポルトガル人。彼らの望みは52系を得て、いよいよ果たされたと言えよう。

(左上)ポルトギーゼの特徴がリーフ形状の時分針。ただし「ハンドワインド・エイトデイズ」ほど立体的でないのは、そこまで重い針を回せるトルクがないためだろう。(右上)文字盤の仕上げは「ハンドワインド・エイトデイズ」に同じ。表面に少し粗めのクリアを吹くことで、角度を変えるとマットに見える仕上げである。インデックスは、2000年代半ばまではエンボス加工だったが、別体部品のアプライドに変更。立体感が増し、視認性も改善された。(中)ケースサイド。基本的な造形は従来の50/51系搭載機と変わらない。自社製のケースの完成度は、写真が示す通りだ。(左下)新規設計されたCal.52010。ダブルバレルに注目。香箱が小さくなった結果、自動巻き機構や駆動輪列を無理なく配置できた。文字盤側3時方向に見える黒い歯車は、セラミックス製の自動巻き中間車。噛み合う爪もやはりセラミックス製だ。自動巻き機構と手巻き機構の間にクラッチをもたないペラトン式自動巻き。そのため手巻きをすると自動巻き機構が摩耗する可能性がある。しかし硬いセラミックスの採用により、自動巻きの寿命は半永久的に延びた。(右下)時計を文字盤側6時方向から見た様子。厚みは増したが、凹面状に内側を抉り取ったコンケーブベゼルといった特徴は、1930年代から不変である。



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