ブルガリ「オクト」は、いかにして”ブルガリの新しいアンバサダー“となったのか

OCTO ROMA
よりソフトに生まれ変わったもうひとつのオクト

オクト ローマ

オクト ローマ
2017年に加わった、オクトのいわばドレスウォッチ版。ケースの面が減らされたほか、ブレスレットの幅が狭くなり、時計の全長も短くなった。自動巻き(Cal.ソロテンポ)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径41mm)。100m防水。68万円。

 発表後たちまち、ブルガリの基幹コレクションに成長したオクト。そのデザインは成熟市場で支持を得たが、スポーティに過ぎるという声もあった。それに対するブルガリの回答が、2017年発表の「オクト ローマ」である。ボナマッサ曰く、「私はオクトにふたつの方向性を持たせたかった。既存のモデルはスポーティ、対して新しいローマはドレッシーだ」。

 彼の言葉通り、ブルガリがオクト ローマで追求したのは、ドレスウォッチらしさであった。それを端的に示すのがブレスレットである。見た目は既存のものに似ているが、リンクは短くなり、腕が細いユーザーでもフィット感が向上した。加えてスポーツウォッチ並みに広かったブレスレットは左右が縮小され、ドレスウォッチ風に仕立て直された。またラグが短くなり、弓管の張り出しも抑えられた結果、全長はぐっと短くなり、時計の取り回しも軽快になった。

 エッジは丸めなかったがファセットの数を減らし、角に大きなRを加えたことも、ドレスウォッチ感を強調するには十分だった。またケースの面が減った結果、製法も変わった。12年モデルのケースは多軸のCNCで製造されていたが、オクト ローマは特殊な工作機械を必要としないため、より生産性を高めることにも成功している。そのためか、オクトに比べて価格も控えめだ。加えてベゼルを一体成型から2層構造に改めたため、コンビモデルといったバリエーションを増やすのも容易になった。細かい手の入れ方はいかにもブルガリだ。

 オクトの可能性を広げるであろう、新しいオクト ローマ。しかし性格が異なるふたつのモデルに強い共通性を感じさせるのは、極めて高度なアレンジによるものだ。次項では、よく似たデザインで性格を切り分けてみせた、ボナマッサの手腕を見ることにしたい。

オクト ローマ

(左)ドレスウォッチらしさを感じさせるのが、ケースサイドとラグの処理だ。ラグの斜面はオクトに比べると明らかに傾いている。ボナマッサ曰く、45度に倒したとのこと。また複雑な面を持っていたケースサイドも、ドレスウォッチらしくシンプルに改められた。(右)ボナマッサの手腕を感じさせるのが、わずかに変更されたインデックス。文字盤を可能な限り大きく見せるのが近年のブルガリだが、このモデルでは、高さを増した見返しの影を入りにくくするため、わずかに文字盤の中心に寄せられた。またドレスウォッチらしく、ロゴもわずかに小さくされた。

オクト ローマ

スリークさを強調したケースサイド。ケースサイドとラグをできるだけフラットに作っている。またミドルケースの厚みを減らすことで、時計をより薄く見せている。

オクト ローマ

(左)搭載するムーブメントは、オクト同じCal.ソロテンポ。スイッチングロッカー式の巻き上げ機構を持つ高級機だ。仕上げと感触はこの価格帯で際立っている。なおケースバックは従来に同じ八角形だが、より生産性の高い構造に改められた。(右)オクトとの最大の違いがブレスレット。幅が23.5mmに狭められ、リンクが短くなった結果、装着感はいっそう優秀である。筆者の触った感触で言うと、左右の剛性感は、むしろオクトより高いのではないか。