モンブラン/ミネルバ クロノグラフ Part.1

今や、語りどころのあるムーブメントを見つけることは容易になった。しかし、ムーブメント単体だけで語り尽くせる時計は、どれほどあるだろうか?その数少ない例が、Cal.MB M13.21こと、旧ミネルバのCal.13-20CH系を載せたクロノグラフだ。約100年前にリリースされたこのクロノグラフムーブメントは、希有な変遷を経て、今なお、時計愛好家たちを魅了し続けている。

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2020年5月号初出]


MINERVA CHRONOGRAPH [1945]
名機Cal.13-20CHを搭載する旧き佳きミネルバ

ミネルバ クロノグラフ

クロノグラフ
1945年に製造されたツープッシュ式のクロノグラフ。この個体は、ストラップを除いてフルオリジナルである。ミネルバはこのデザインを好んで用いた。手巻き(Cal.13-20CH)。17または18石。1万8000振動/時。18KYG(直径37mm、全長42mm、厚さ12.5mm/実測値)。参考商品。

 時計愛好家からの評価が年々高まってきているミネルバのクロノグラフ。同社がクロノグラフの生産を始めたのは1908年と遅かったが、その15年後には、腕時計用クロノグラフのキャリバー20CH(後の13-20CH)をリリースしている。腕時計クロノグラフの黎明期に作られた13-20CHは、基本的に1908年に発表されたキャリバー9(後の19-09)の設計を踏襲していた。丸穴車を避けて配置したコラムホイールや、リーチが極端に長いリセットハンマー、そしてブレーキレバーを省いた構成などは、明らかに懐中時計クロノの影響を受けたものだ。もっとも設計が古くなったため、30年代から40年代にかけて、ミネルバはブレーキレバーや耐震装置を追加し、操作系をツープッシュボタンに改めるなどのアップデートを施した。現在のミネルバ クロノグラフは、事実上、その継続生産版と言っていい。

 写真のモデルは、キャリバー13系の円熟期にあたる1945年製の個体である。廉価版はメルキュール、高級版はミネルバが担ったため、かつてのミネルバ製クロノグラフには、しばしば当時珍しかった18Kゴールドケースのモデルが見られる。本作も、大きく湾曲したラグや、金メッキ仕上げの文字盤など、当時のクロノグラフとは明らかに異なるディテールを備えている。また、ムーブメントの仕上げも、当時のミネルバが手掛けたムーブメントとしては最上級だ。かつてのミネルバ製ムーブメントが、すべて、愛好家が期待するような仕上げを持っていたわけではない。しかし、このモデルは、ハイエンドのクロノグラフに比肩するだけの仕上げを備えている。

 もっとも、基本設計が古くて拡張性がなかったため、ミネルバはこのクロノグラフムーブメントの製作を、1960年代には中止してしまう。そのリバイバルは、2000年を待たねばならない。

ミネルバ クロノグラフ

(左)1940年代らしい、平べったいリュウズとプッシュボタン。素材はおそらく、真鍮に金張りである。あまり使われていないこの個体は、針合わせやプッシュボタンの感触も、オリジナルに近いと想像できる。適度な反発力を感じさせるプッシュボタンは、このモデルが徹底した実用機であることを思わせる。(右)1940年代のクロノグラフとしては珍しい、ゴールド文字盤。素材は真鍮で、その上から金メッキをかけている。アラビア数字とバーまたはドットを併用したインデックスは、1940年代に好まれたデザインである。

ミネルバ クロノグラフ

ミドルケース。1930年代に普及したプラスティック製の風防は、厚みのある時計を薄く見せるという効果をもたらした。注目すべきは、大きく曲がったラグと、低く取り付けたストラップの位置。直径37mmというサイズは、当時としては例外的に大きい。おそらく、装着感を改善するためにストラップを低く取り付けたのだろう。

ミネルバ クロノグラフ

(左)立体的なケースバック。当時の刻印がそのまま残っている。(右)オリジナルの時分及びクロノグラフ針。18Kゴールドケース入りとは言え、当時のミネルバは中堅の高級機という位置付けだった。それを反映してか、クロノグラフ針はおそらくダイヤモンドカットで面を均した平板なものである。


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