ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2024で発表された、グランドセイコーの新作モデル「エボリューション9 コレクション 手巻メカニカルハイビート36000 80 Hours モデル」を深掘り! 新規開発の手巻きムーブメントCal.9SA4を搭載した本作は、主ゼンマイの巻き感に要注目だ。
Text by Hiroyuki Suzuki
[2024年4月26日公開記事]
新規開発の手巻きムーブメントCal.9SA4
装身具である腕時計を突き詰めてゆくと、スペックでは推し量れない“感覚性能”が気になってくる。多くは重心バランスを含めた装着感や、針回しの感触として感じられるのだが、それが手巻き時計の場合には、もうひとつ重要な評価軸が加わる。主ゼンマイの巻き感だ。
グランドセイコーが先のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで発表した「エボリューション9 コレクション」のRef.SLGW003とRef.SLGW002は、約50年振りの新規開発となった手巻きメカニカルの「Cal.9SA4」を搭載。ベースムーブメントとなったのは自動巻きの「Cal.9SA5」で、約80時間のロングパワーリザーブや3万6000振動/時の超ハイビート、さらにツインバレルや巻き上げヒゲ、フリースプラングによる調速、デュアルインパルス脱進機といったメカニカルトピックも共通。開発の背景としては、Cal.9SA5の企画段階で、メカニカルクロノグラフのCal.9SC5とともにロードマップに組み込まれており、実際には2021年頃から設計が始まったという。
手巻き(Cal.9SA4)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KPGまたはブリリアントハードチタンケース(直径38.6mm、厚さ9.95mm)。3気圧防水。SLGW002は世界限定80本(うち国内50本)。SLGW002:605万円、SLGW003:145万2000円(いずれも税込み)。
企画の発端は、エボリューション9スタイルに準じて、薄型時計としてのエレガンスを追求すること。そのための手段として手巻きが選ばれた。そもそもCal.9SA5は「手巻き付きの自動巻き」であり、巻き上げ機構を取り払うだけでも容易に手巻き化は可能だったはずだ(事実そうした設計の“手巻き仕様”は数多い)。しかし設計陣は、手巻き時計としての感覚性能にこだわった。つまり、巻き感を何より大切にしたのだ。
新規設計されたコハゼ
Cal.9SA4の主ゼンマイは、パワーリザーブゼロの状態から、リュウズを54回転させることで、約80時間分を巻き上げることができる。これはCal.9SA5に対して約15%の効率アップとなっている。さらに退却式のコハゼを新規設計することで、巻き上げの際のカチカチ感、つまり適度なリュウズの重さと心地よい音を実現させている。筆者は普段、同じく退却式のコハゼを備えるモリッツ・グロスマンの手巻きを常用しているのだが、これと比較しても、巻き上げの重量感がちょうど良いバランスなのだ。
グランドセイコーの設計手法としては、パーツ点数が多くなって、結果として堅牢さを犠牲にする退却式のコハゼはNGなはずだ。そのため、耐久性を高めた新構造(現在はパテントペンディング)を採用することで、グランドセイコーのフィロソフィーに寄り添わせている。また外装設計の面では、ムーブメント設計の面からは大きめのリュウズを採用したかったようだが、薄型のエレガンスを追求したいデザインチームの観点からは、あまり大きなリュウズは好ましくない。このあたりのせめぎ合いが、手巻き機構の再考やコハゼの設計、リュウズのサイズ感などに結実したのだなと思うと、時計好きとしてはやはりニヤリとしてしまう。
デザインに取り入れられる、岩手の自然
デザイン面の話をすると、最初のバリエーションをコンサバでまとめるというのはグランドセイコーのお約束らしい。そのためこのモデルの表情は、好評を博した「白樺ダイアル」をベースに、さらにクローズアップしたものとなっている。白樺の群生林を模した前者は、通称「ホワイトバーチ」と呼ばれるのに対し、より1本1本の樹皮感を強調した後者は「バーチバーク」と呼ぶようだ。ちなみに退却式のコハゼには、岩手の鳥である「セキレイ」がモチーフとして盛り込まれている。
基本設計をCal.9SA5に寄り添いながら、手巻き化に際して約40%の部分を新規設計したというCal.9SA4。手巻きなのだから、週末2日間でのゼンマイ切れを防げる約80時間パワーリザーブも適切だ。もっとも、筆者としてはもっと短くてもいいのでは、とも思ってしまう。だってさ、ずっと巻き上げていたくなる、そんな感触なんですよ!
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