モリッツ・グロスマンは、マニュファクチュールの創立16周年を記念し、世界限定8本の特別なモデル、「エナメル ローマン・ヴィンテージ」を発表した。このモデルにはいくつもの工程を経て製作されるブラックエナメルダイアルが採用されている。ブラックエナメルが生み出すコントラストを活かしたモデルはモリッツ・グロスマンの最上級の職人技を証明している。
伝統を風化させないためには時に刷新が必要となる。歴史的に重要な時計職人の名を冠したモリッツ・グロスマンは2008年より伝統技法と最先端の技術を用いたウォッチメイキングを続けてきた。グロスマンはドイツ時計学校の設立に貢献し、現代まで続くグラスヒュッテの時計産業に大きな影響を与えた人物だ。彼のビジョンと信念は現代に引き継がれている。モリッツ・グロスマンの工房では精巧で洗練されたコレクションを少数生産している。細部にまで仕上げが及ぶ美しいムーブメントは自社で設計され、熟練した職人が丁寧な装飾を施し組み上げている。
エナメル ローマン・ヴィンテージ
手巻き(cal.100.1)。20石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KWGケース(直径41mm、厚さ11.35mm)。世界限定8本。1210万円(税込み)。
16 周年を記念したエナメル ローマン・ヴィンテージ
モリッツ・グロスマンの哲学を受け継いだ「エナメル ローマン・ヴィンテージ」は黒と白、そして赤のコントラストが際立つモデルだ。エナメル技法は紀元前から古代エジプトや東アジアで芸術品に用いられてきた。その後、ヨーロッパへと伝わった技術は美しい色彩だけでなく、経年による変色の少ない性質や滑らかで光沢感のある特有の質感も高く評価されてきた。
懐中時計の時代にはエナメルダイアルが多く用いられるようになり、ザクセン王国でも金銀細工と共にエナメル細工の技術が培われた。17、18世紀にはドレスデンの金細工職人ディングリンガー兄弟が素晴らしい作品を残している。彼らはアウグスト強王の下で活躍し、作品は現在もドレスデンのグリューネス ゲヴェルベに飾られている。
工芸品としてのエナメルダイアル
機械式時計が再び注目されるようになり、世界中の好事家たちからエナメルダイアルが人気を集めている。特有の美しさはもちろん、限られた職人の手によって生み出される希少性が評価されている。ガラスから作られるエナメルは、ガラスパウダーに金属酸化物や陶磁器釉薬を加え着色される。粉状のままふるいにかけるか、または水や糊と混ぜダイアルに塗布され、焼成と冷却を何度も繰り返してエナメルの層を重ねて仕上げていく。光沢をもつ深みのある表面へと仕上げられ、最後にインデックスや目盛りを印字し再度焼成する。変色に強いエナメルダイアルは1000年を超えて愛用し続けることが可能なのだ。
およそ90もの工程を経て仕上げられるモリッツ・グロスマンのエナメルダイアル
ザクセンで製作されるモリッツ・グロスマンのエナメルダイアルは、まさにこの伝統的な製法で仕上げられている。ダイアルだけでなく、ローマンインデックスやミニッツ・セコンドスケール、そして「M. GROSSMANN」の伝統的なロゴもエナメルで印字した後に焼成し仕上げられている。
1枚のエナメルダイアルが出来上がるまでにおよそ90もの工程があり、完成までに多くの日数を要する。焼成時にエナメルの表面が割れたもの、欠けたもの、気泡が発生したものは全て廃棄され、美しい仕上がりのダイアルだけが時計にセッティングされる。
芸術的なダイアルの上を、同じように手と時間をかけて仕上げた自社製の針が進み時刻を指し示す。何層も重ねて仕上げられた深みのあるブラックがエナメルの滑らかな表面を強調し、細身のローマ数字の12時部分は赤で彩られ、鮮明なコントラストが印象深い。ホワイトゴールド製のシンプルなケースラインは細身のラグと調和し、まさにクラシックの王道のようだ。ケースバック側からはサファイアクリスタル越しに完璧な仕上がりのムーブメントを見ることができる。
自社製ムーブメントCal.100.1
「エナメル ローマン・ヴィンテージ」には支柱構造の自社製ムーブメントCal.100.1 が搭載されている。特徴的なジャーマンシルバー製の2/3プレートには幅広のリブ模様が施されている。テンプに沿うようにデザインされたプレートのカットアウトからは、精密調整ネジを備えた片持ち式テンプ受けとテンワを見ることができる。もうひとつの特徴は完全自社製のプッシャー付き手巻き機構だ。この機構により、リュウズを戻す際に意図せず時刻がずれてしまうことや、時刻調整時にゴミなどの異物が入り込んでしまうという大きなふったつの問題を解消することができている。
魅力的なディテール
モリッツ・グロスマンとは?
モリッツ・グロスマンは1826年にドレスデンに生まれ、偉大なドイツ人時計職人たちにおいて先駆者とみなされている。若く才能に恵まれた時計職人であったグロスマンは、友人のアドルフ・ランゲの説得により1854年に自身の工房をグラスヒュッテに設立。評価の高い時計企業を運営する一方で、グロスマンは政治的・社会的な活動に努め、1878年にはドイツ時計学校を設立。1885年にモリッツ・グロスマンは突然亡くなり、彼の死とともに時計マニュファクチュールも解体された。
このモリッツ・グロスマンの伝統的な時計作りが2008年に復活した。時計師クリスティーネ・フッターが、かつてグラスヒュッテの時計ブランドであったモリッツ・グロスマンに出会い、その商標を取得し、構想を練り、素晴らしく繊細な腕時計とともに残された120年前のグロスマンの遺産を受け継いだのだった。そして、個人の時計愛好家からの支援によって2008年11月11日にグロスマン・ウーレン社がグラスヒュッテに設立された。
今日のグロスマンの時計師は、歴史的な部分を単に模倣するのではなく、新たな伝統を作り上げている。モリッツ・グロスマンは、革新と卓越した技能を基に、伝統的であると同時に最新の仕上げ技術と高品質の素材を使い、年産わずか350本ながら、時計作りにおける「新しい時代の原点」を創り出している。