広田雅将編集長のSIHH2019雑感②

2019.01.22

「コード11.59 by オーデマ ピゲ オートマティック」のスペックはこちら

Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)

駄作か傑作か? オーデマ ピゲの「コード11.59 by オーデマ ピゲ」

 賛否の激しかった新作が、オーデマ ピゲ「コード11.59 by オーデマ ピゲ」コレクションである。ネットの評価を読んだが、評価はほぼ否定的で、「あれは世紀の失敗作」というコメントさえあった。筆者も当初は同感だったが、実物を見て考えを改めた。実物は、写真の100倍も魅力的である。

 そのお披露目会で、筆者はブランドアンバサダーのクローディオ・カヴァリエール氏と、ムーブメントを設計したジュリオ・パピ氏と話をした。カヴァリエール氏のコメントが面白い。「ネットでの評価は知っている。しかし、1972年に発表したロイヤル オークのファーストモデルも、93年のオフショアも、最初はまったく評価されなかった。今の評価は私たちの予想通りだ」。むしろ彼らは、受けが悪いことを喜んでいるのである。

 彼らの自信の表れは、実物を見れば分かる。基幹モデルの「コード11.59 by オーデマ ピゲ オートマティック」は表から見ると普通の3針時計だが、ケースサイドはかなり複雑に出来ている。製法は古典的で、ベゼルとミドルケースを一体化したケースをまず成形し、そこにラグを溶接し、最後に裏蓋を取り付ける。完全なワンピースケースにしか見えないのは、加工精度が高ければこそ、だ。普通、こういう目新しいケースには、“新しい文字盤”を合わせるのが定石だ。しかしオーデマ ピゲは、あえて古典的な文字盤と針を与えたのである。カヴァリエール氏は明言しなかったが、その手法は、初代のロイヤル オークにまったく同じだ。

 この時計は搭載する新型ムーブメントも良く出来ている。お披露目の最中、意地悪く針飛びをチェックしたが、オフセット輪列にもかかわらず針飛びは皆無だった。またローター音や、カレンダー切り替え時のノイズなども高級機らしく抑えられていた。まだ既存の31系ほどの熟成感は持ち合わせていないが、緻密な針合わせの感触からは、素性の良さがうかがえる。面白いのは自動巻き機構である。パピ氏曰く「自動巻きは標準的なリバーサー、しかしMPSのシステムを採用した」とのこと。リシャール・ミルが初めて自動巻きに採用したMPSは、本誌クロノス日本版でも絶賛した、新時代の自動巻きである。31系のスイッチングロッカーほど高級機向けではないが、巻き上げ効率は高く、ノイズも小さく、摩耗も起こりにくい。また、テンワの慣性モーメントは31系よりもはるかに大きくなり、パワーリザーブも約70時間に延びた。この新型ムーブメントについては、今後本誌できちんとフォローする予定である。

 一見、風変わりな3針時計にしか見えないコード11.59 by オーデマ ピゲ オートマティック。しかし、実物は写真よりはるかに魅力的だし、熟成次第では、間違いなくオーデマ ピゲの定番になるだろう。筆者はこのモデルが大変に好きである。少なくとも、独立資本のメーカーでなければ、こんな時計は作れない。



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