ハイテクチタンで武装した、オメガの超軽量時計
総重量わずか57gのスポーツウォッチ。耐衝撃性を高めるため、ムーブメントは手巻きに変更された。付属するベルクロストラップに変更すると、さらに2g軽い55gになる。手巻き(Cal.8929 TI)。29石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミックス×ガンマチタン(直径41mm)。15気圧防水。1万5000ガウスの耐磁性能。日差0秒~+5秒以内。予価522万円。2019年末発売。
2019年8月28日(水)、オメガは総重量57gの超軽量スポーツウォッチ「シーマスター アクアテラ “ウルトラライト”」を発表した。ベースになったのはベーシックモデルの「アクアテラ 150m」。軽量化のため、ケース素材がガンマチタン(γ-TiAl)に、ムーブメントの地板と受けが真鍮からセラマイズドチタンに変更された。
チタンとアルミの合金であるガンマチタンは、軽い上、表面硬度が硬いという特徴を持っている。また、この素材はセラミックスと異なり、強い衝撃を与えても割れることがない。宇宙工学の世界では広く用いられているが、時計の世界での採用はおそらく初ではないか。あくまで推測だが、ケース内部も中空ではないか。
手巻きムーブメント Cal.8928 TI
搭載するのは、手巻きのCal.8928 TI。詳細なスペックは明らかにされていないが、今年6月のタイム・トゥ・ムーブで発表された「デ・ヴィル」用の手巻きムーブメント、Cal.8929/8910がベースだろう。これはすでにあったムーブメントの改良版で、香箱真を細くすることで長い主ゼンマイを搭載し、パワーリザーブを約72時間に延長したものである。
おそらくは、このムーブメントの地板と受けをセラマイズドチタンに改めたのが、Cal.8929 TIである。採用の理由は不明だが、理論上は擦過に強いため、丸穴車と受け間の抵抗などは小さくなるはずだ。別の理由も考えられる。リュウズを押し込み式に変えた結果、おそらくリュウズはチューブではなくムーブメント自体で保持されている可能性が高い。巻き真を支える部分の負荷は増えるはずで、とすれば、柔らかい真鍮やチタンではなく、硬いセラマイズドチタンが望ましいだろう。
このモデルは、オメガのアンバサダーであるゴルファーのローリー・マキロイの協力によって開発された。狙いは、ゴルフのプレー時の強い衝撃にも耐えられる機械式時計を作ること。もっとも理論上、高い振動数と、緩急針を省いたフリースプラングテンプ、そしてシリコン製のヒゲゼンマイを採用すれば、強いインパクトを受けても、精度が大きく変わることはない。
幸いにもフリースプラングとシリコン製のヒゲゼンマイを持つオメガのマスタークロノメーターは、そもそも高い耐衝撃性能という条件を完全に満たしていた。アクアテラに「ゴルフ」モデルが存在する理由である。しかしながら同作は、ゴルフのインパクトに耐えられる耐衝撃性能は持っていたものの、基本的にはアクアテラの色違いでしかなかった。今回オメガは、その性能をさらに飛躍させたわけだ。
加えてオメガは、本作に日付表示のない手巻き版を採用した。理由は薄くするためではなく、さらに耐衝撃性能を高めるため。その証拠に、手巻きムーブメントを採用したにもかかわらず、ケースは決して薄くない。
リュウズ
本作で目新しい点は、内蔵式のリュウズを採用した点である。リュウズを押しこむとケース内に格納され、プレーの邪魔にならない他、外部からの衝撃を受けにくくい。直径29mmのCal.8900系は、テンワが大きく理論上は携帯精度に優れているが、直径41mmのケースに格納すると、リュウズを格納するスペースは捻出できないだろう。対してオメガは、リュウズガードを盛り上げることで、そのスペースを確保してみせた。なおケースとムーブメントの間に衝撃を緩和するスペーサーを噛ませている可能性はあるが、現時点では不明である。
文字盤
文字盤はグレード5(Ti-6AL-4V)のチタン合金製。グレード2こと純チタンを選ばなかった理由は、切削が困難なためだろう。インデックスは、写真を見た限りではアプライド。耐衝撃性能を考慮するとベースとの一体成型が望ましいが、オメガは特別な方法でインデックスを保持しているのかもしれない。
文字盤をスケルトンにしなかった理由は視認性を高めるためで、純粋に機能面だけを考えれば、この選択は賢明である。加えて、軽量化のためダイアル背面の肉抜きを行ったとのこと。文字盤の保持方法は既存のモデルと違うはずだが、現時点での情報はない。
オメガの驚くべき野心作、シーマスター アクアテラ “ウルトラライト”。非常に魅力的な時計だが、522万円(税抜)という価格には若干疑問が残る。なぜオメガはこのモデルを作ったのか、またなぜこの価格を与えたのか。本誌クロノス日本版及びwebChronosでは、今後もこの新しいスポーツウォッチを追いかけていく予定だ。
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