2021年1月5日、オメガはマスター クロノメーター規格に準拠したCal.3861を搭載する新しい「スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター」を発表した。デザインはブレスレットを除いて、既存の「ムーンウォッチ」にほぼ同じ。加えてケース素材にはSSのほか、18Kセドナゴールドと18Kカノープスゴールドが用意された。風防の素材はサファイアクリスタルで、裏蓋もシースルー。しかし、SSモデルのバリエーションとして、「プラ風防」ことヘサライト(硬化プラスティック)製風防のモデルが残された。こちらのモデルは、あえてシースルーバック仕様ではなく、ソリッドバックとなっている。
最も標準的なSSケースにSS ブレスレットのモデル。1万5000ガウスの耐磁性能と日差0〜+5秒/日という驚異的な静態精度を誇る。風防は内面に無反射コーティングを施したサファイアクリスタル製。裏蓋も一部にサファイアクリスタルを用いたシースルーである。手巻き(Cal.3861)。26石。2万1600 振動/時。パワーリザーブ約50 時間。SS(直径42mm、厚さ13.18mm)。5気圧防水。5年保証。写真のモデルはSSブレスレット付きで77万円(税別)。
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
1万5000ガウス耐磁、クロノメーター準拠のCal.3861
新しいオメガ「スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター」の大きな目玉は言うまでもなく、マスター クロノメーター化されたCal.3861にある。ベースとなったのは、1960年代後半にリリースされたCal.861。以降50年近くほぼそのまま作られてきたが、2019年には脱進機をコーアクシャルに改めるだけでなく、耐磁性能を1万5000ガウスに向上させたCal.3861に発展させた。Cal.861の後継機であるCal.1861とCal.3861の違いは以下の通りである。
・脱進機をスイスレバーから3層のコーアクシャルに変更
→等時性とメンテナンス間隔の向上
・耐震装置をニヴァショック(ニヴァガウス製)に変更
→非磁性素材の採用による耐磁性の向上と、衝撃からの復元性能の向上
・軸受けなどを非磁性素材のニヴァガウスに変更
→耐磁性の向上
・ヒゲゼンマイをニヴァロックスからシリコン製のSi14に変更
→耐磁性、衝撃からの復元性能の向上
・緩急装置にフリースプラングテンプを採用
→等時性、衝撃からの復元性能の向上
・一部輪列の歯形を変更
→トルク伝達効率の改善(クロノグラフ作動時のトルクロスは約 8%から約 2%に減少)
・香箱の変更により長くて高トルクの主ゼンマイを搭載
→パワーリザーブが約2時間延長
・テンワの慣性モーメントを13mg・cm2から24mg・cm2に拡大
→携帯精度の改善
また外観にも手が入れられ、受けのエッジは深めのダイヤモンドカットに改められた。
なんとオメガは、新しいスピードマスターに「プラ風防」のモデルを残してくれた。風防は昔懐かしいヘサライト製で、裏蓋もソリッドバックである。詳細は不明だが、耐磁性能を高めた結果、ムーブメントの耐磁カバーは省略されているはずだ。なお、サファイアクリスタル風防のモデルに比べて、ケースは0.4mm厚くなっている。価格も非常に魅力的。手巻き(Cal.3861)。26石。2万 1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径42mm、厚さ13.58mm)。5気圧防水。5年保証。写真の通り、「プラ風防」のモデルは、ストラップがレザーではなく、ナイロンである。64万円(税別)。
Cal.861とその後継機であるCal.3861は、直径が27mmしかない。そのためコーアクシャル脱進機を載せるのは不可能と考えられてきた。しかし、香箱や歯形の変更などにより、オメガは大きく重いコーアクシャル脱進機をムーンウォッチに加えることに成功した。当初は生産性に難があったようだが、オメガはその問題をクリアしたようだ。
なお、19年春、筆者はオメガ社長兼CEOのレイナルド・アッシェリマンから今後のスピードマスターの展開について話を聞いた。その際、彼は「今後、ムーンウォッチのムーブメントはCal.321とCal.3861のふたつになる」と断言した。つまり新しいムーンウォッチの登場により、Cal.1861 を載せた伝説的なムーンウォッチはディスコンになるはずだ。
スピードマスターの新しい心臓が、マスター クロノメーター規格に準拠したCal.3861である。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。フリースプラングテンプ。シリコン製Si14のヒゲゼンマイ。1 万5000ガウスの耐磁性能。静態精度0~+5 秒以内。
見た目はほぼ同じだが細部は煮詰まった
新しいスピードマスターは、既存のモデルに同じく、いわゆる第四世代に範を取ったデザインを持つ。仕上げも同じであり、ベゼルもセラミックスではなくアルミニウム製だ。ただし、いくつかのディテールが変更された。 既存モデルとの違いは以下の通り。
・タキメーターの90表記が、いわゆる「ドット・オーバー90(DON)」に変更
・ミニッツスケールが5刻みから3刻みに変更
・文字盤上のΩロゴが、プリントからアプライドに変更(ヘサライト製風防モデルを除く)
・ベゼル上の TACHYMETRE 表記が拡大
歓迎すべき変更点はミニッツスケールが1/5秒刻みから1/3秒刻みに改められたこと。1万8000振動/時のムーブメントであれば、1/5秒刻みのミニッツスケールは計測時間を正しく表示できるが、2万1600振動/時だとずれが生じる。半世紀を経て、オメガはようやく訂正を加えた訳だ。
最も喜ぶべきは新しいブレスレットである
大きく重いスピードマスターは、お世辞にも装着感の良い時計とは言えなかった。加えて、中ゴマの大きく飛び出した弓管(オメガが言うところの「Tシェイプリンク」)は、ブレスレットの着け心地を悪化させた。対してCEOのアッシェリマンは19年の時点で、ブレスレットの改善を明言。以降リリースされたスピードマスターは、中ゴマの張り出しを抑えた「Uシェイプリンク」の弓管に変更されている。
この流れは新しいスピードマスターも例外ではなく、新しいブレスレットは中ゴマの張り出しを抑えたUシェイプリンクとなった。また、中ゴマの幅と長さが縮められたほか、おそらくは、ブレスレットのコマ数も増えているはずである。詳細は不明だが、この新しいブレスレットは、間違いなくスピードマスターの着け心地を改善するに違いない。合わせて、メタルブレスレットのクラスプは幅が15mm、レザーとナイロンストラップ用のデュプロイメントバックルは幅16mmと、既存のものに対してかなり細くされた。推測だが、新しいスピードマスターは、デスクワークの邪魔になりにくいかもしれない。
結論:オタクにも、そうでない人にも
時計好きにとっての永遠の定番であるスピードマスター。実物は未見のため断言はできないが、耐磁性能と精度を高めた新ムーブメントと、劇的に改善されたブレスレットはこのモデルの魅力を大きく高めた、と言えるだろう。とりわけ「プラ風防」を採用したふたつのモデルは、控えめな価格といい、ソリッドバックといい、マニア心をくすぐる要素に満ちている。少なくとも筆者にとって、新しいスピードマスターは必ず買うべきモデルのひとつとなった。これほど夢に満ちた実用時計は、ちょっと他にない。
Ref.310.60.42.50.01.001(左)&310.60.42.50.02.001(右)
新しいスピードマスター ムーンウォッチには、ゴールドケースのモデルが4種類用意された。(左)外装に18Kセドナゴールドをあしらったモデル。風防は内面に無反射コーティングを施したサファイアクリスタル製。裏蓋も一部にサファイアクリスタルを用いたシースルーである。またロゴ、一部のインデックス、そして時分針が18Kセドナゴールド製に変更された。手巻き(Cal.3861)。26石。2万1600 振動/時。パワーリザーブ約50時間。18Kセドナゴールド(直径42mm、厚さ13.18mm)。5気圧防水。5年保証。374万円(税別)。ブティック限定モデル。
(右)こちらは18Kカノープスゴールドを採用したモデル。18Kセドナゴールド同様、変色が起こりにくい素材である。また、標準的なホワイトゴールドと異なり、ロジウムを配合することで、高い輝度と変色が起こりにくい特性を持つ。そのため、表面にロジウムメッキを施していない。風防は内面に無反射コーティングを施したサファイアクリスタル製。裏蓋も一部にサファイアクリスタル を用いたシースルーである。またロゴ、一部のインデックス、そして時分針が18Kホワイトゴールド製に変更された。文字盤はサンレイ仕上げのシルバー。写真のモデルは18Kカノープスゴールドブレスレット付きで486万円(税別)。ブティック限定モデル。
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