ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ2021 受賞モデル総覧

　“時計界のアカデミー賞”と称される、「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ（GPHG）」が今年度も開催された。今年は授賞式が2021年11月4日にジュネーブのテアトル・デュ・レマンで行われ、リアルでの開催は2年ぶりとなった。

　このGPHGは、「最も注目に値する現代の作品を讃え、世界中の時計製造時技術を宣伝する」という目的で2001年に創設された賞で、開催年度に発表された新作の中で優れたモデルを決めるものだ。「メンズウォッチ」や「コンプリケーション」など、いくつかの部門に分かれており、単にデザインだけではなく時計全体の魅力を審査の対象としている。

　スイスに限らずドイツや日本など、多くの国々の時計ブランドが毎年エントリーしている。今年度のハイライトで注目されたのは、グランドセイコーが「メンズウォッチ賞」を受賞したというニュース。このグランプリは「GPHGアカデミー」と呼ばれる、業界関係者や時計ジャーナリスト、独立時計師からの投票によって決められるため、グランドセイコーが世界の識者から高い評価を得た、ということは明白である。さて、今回はGPHG2021で栄光に輝いた、各部門の受賞作品を詳しく見ていこう。

GPHG2021 各部門受賞モデル総覧

金の針賞（“Aiguille d’Or” Grand Prix）：最高賞

ブルガリ「オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダー」

　数々の薄型時計の記録を樹立してきたブルガリが送り出した、7度目の受賞作である世界最薄の自動巻きパーペチュアルカレンダー搭載モデル。各部品を単純に小型化するのではなく、レトログラード式のカレンダー表示やマイクロローターを採用することにより、無理なく薄型化を実現させている。「オクト」の特徴でもある多面的なケースは、見る角度によって多彩な表情を見せ、トータルパッケージでの秀逸さも際立つ一本に仕上がっている。

レディースウォッチ賞（Ladies’ Watch Prize）

ピアジェ「ライムライト ガラ プレシャス レインボー」

　1970年代に誕生した、アシンメトリーなラグが特徴的なレディースウォッチ「ライムライト ガラ」。コレクション初である、ベゼルからラグにかけての鮮やかなレインボーセッティングが特徴の今作は、同社が誇る時計製造技術と宝飾技術を見事に融合させた一本である。ダイアルから連続したようなデザインの18KPG製ブレスレットは手作業で作られており、数百個ものリンクを組み立てはんだ付けすることで、しなやかな着け心地を実現させている。

レディースウォッチ複雑時計賞（Ladies’ High-Mech Watch Prize）：複雑機構を搭載したレディスモデル

ヴァン・クリーフ＆アーペル「レディ フェアリー ウォッチ」

　マザー・オブ・パールの雲に腰かけた妖精が時刻を指し示す、同社らしい詩的なモデル。透明感溢れる妖精の羽は、プリカジュールエナメルとグリザイユエナメルを駆使して描かれている。時は月をイメージした6時位置の小窓からジャンピングアワーによって示され、分は妖精が手にした杖によってレトログラードで示される。ダイアル一面にはギヨシェ装飾が施され、優しい月の光が表現されている。ベゼルやラグにはダイヤモンドが隙間なくセットされている。

メンズウォッチ賞（Men’s Watch Prize）

グランドセイコー「ヘリテージコレクション」SLGH005

　デュアルインパルス脱進機やフリースプラングテンプなど、挑戦的な試みを盛り込んだグランドセイコーの新世代ムーブメント「Cal.9SA5」を搭載したレギュラーモデル。特徴的なダイアルの模様は、グランドセイコーの新たな製造拠点として誕生した「グランドセイコースタジオ 雫石」近くに群生する白樺をイメージしている。取り回しやすいサイズ感や日常生活では十分な防水性に加え、精度やパワーリザーブが向上した今作は、実用的な高級時計として申し分ないスペックを持ち合わせる。

メンズウォッチ複雑時計賞（Men’s High-Mech Watch Prize）：複雑機構を搭載したメンズモデル

MB&F「LMX チタン」

　「レガシーマシン（LM）」の10（X）周年記念モデルとして登場した、「LMX」。左右対称の立体的なデザインが特徴のモデルだ。二つのダイアルを持つデュアルタイムウォッチであり、右側のダイアルは2時位置のリューズで、左側のダイアルは10時位置のリューズで操作することができる。中央に位置するのは、磨き上げられたアームによって吊るされたフライングテンプ。ドーム型のサファイアクリスタルと共に、神秘的な魅力を放っている。表示方法を切り替え可能なパワーリザーブインジケータ等、ユニークな機構を満載している。

アイコニック賞（Iconic Prize）：20年以上にわたり時計史に影響をおよぼした象徴的なモデル

オーデマ・ピゲ「ロイヤル オーク "ジャンボ" エクストラ シン」

　サンレイ仕上げを施したグリーングラデーションダイアルが特徴のAP HOUSE限定モデル。丁寧に磨きこまれたケースとブレスレットはプラチナ製。取り回しやすい39mm径のケースに「Cal.2121」を収めたRef.15202は、1970年代に発表されたオリジナルモデルの血を色濃く引き継いでいる。さまざまな派生モデルを生み出してきた「ロイヤル オーク」だが、その中でも細身の針とインデックスを持つ今作には、ラグジュアリースポーツの先駆けたる矜持を感じる。

トゥールビヨン賞（Tourbillon Watch Prize）：トゥールビヨンを搭載したモデル

ドゥ・ベトゥーン「DB Kind of Two トゥールビヨン」

　ケースの表裏両面にダイアルを持つユニークなモデル。片面はアラビア数字インデックスにブレゲ針を組み合わせたクラシカルなデザインだが、反転させることによって6時位置にトゥールビヨンを配したモダンなダイアルに早変わりする。この構造は、ダイアル部分を3時から9時位置で支えるフローティングラグによって実現されたものである。ダイアル上で一際目を引く青い針はチタン製。青焼きや加工が困難ながらも、同社が扱いを得意とする素材である。

カレンダー&アストロノミー賞（Calendar and Astronomy Watch Prize）：特殊なカレンダーや天体に関する機能を搭載したモデル

クリスチャン・ヴァン・ダー・クラウ「CVDKプラネタリウム アイゼ・アイシンガ」

　18世紀に製作され、現在も稼働する世界最古のプラネタリウムと言われているアイゼ アイシンガ プラネタリウム。その極めて正確な太陽系の動きを特徴的なブルーと共に腕時計のサイズに閉じ込めたのが本作である。ダイアルのブルーには油絵の具が用いられており、実物のアイゼ アイシンガの木の質感を再現している。シリンダー型のケースには、真っすぐに伸びたラグとオニオンリューズがセットされており、全体をクラシカルにまとめられている。

特別なメカニカル賞（Mechanical Exception Watch Prize）

ピアジェ「アルティプラノ アルティメート・オートマティック」

　厚さ4.3mmのケースにペリフェラルローターによる自動巻き機構を組み込んだ超薄型ウォッチ。ケースバックが地板を兼ねる特殊な構造は、ピアジェの得意とする手法だ。ダイアルをオフセットすることによってムーブメントを露出させたデザインは、薄型化に寄与するだけでなく、審美性の向上にも一役買っている。薄いサファイアクリスタル越しに、丁寧な仕上げが施されたブリッジやムーブメントの動きを鑑賞することができる。