オメガ史上最強クロノグラフ誕生! 常識はずれの精度を実現した「スピードマスター スーパーレーシング」を現地取材

2023.01.27

2023年1月27日、オメガは新作「スピードマスター スーパーレーシング」を発表した。見た目は既存のクロノグラフをレーシーに仕立て直したもの。ムーブメントも大きく変わってはいないが、これは史上最強のオメガ製クロノグラフ、かもしれない。その特徴は驚異的な精度。公式発表された静態精度は0秒から+2秒以内というから、テンプを持つ機械式クロノグラフとしては、おそらくもっとも正確ではないか。

スピードマスター スーパーレーシング

オメガ「スピードマスター スーパーレーシング」
自動巻き(Cal.9920)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS×セラミックスケース(直径44.25mm、厚さ14.9mm)。50m防水。156万2000円(税込み)。発売時期未定。
広田雅将(クロノス日本版):取材・文
Text by Masayuki Hirota


シリコン製ヒゲゼンマイの弱点をついにクリア

 今や多くの時計が採用するになったシリコン製のヒゲゼンマイ。磁気や温度変化に強く、しかも変形しにくいこの素材は、量産型の腕時計にはもっとも適した物だろう。しかし、ガラス質のシリコンは割れやすいため、普通の機械式時計に付く緩急針を使えない。

 というのも、ヒゲゼンマイを挟み、その長さを変えることで時計の遅れ進みを調整する緩急針は、ヒゲゼンマイに負荷をかけてしまうのだ。そのため、シリコン製ヒゲゼンマイ付きの機械式時計は緩急針に代えて、テンワの錘を調整して(オメガの場合は錘をテンワの枠に近づけると遅れ、遠ざけると進む)遅れ進みを変える「フリースプラングテンプ」を持つ。

 今でこそシリコンは割れにくくなったが、シリコン製のヒゲゼンマイには触らないし触らせる設計はしない、が時計業界の不文律だった。その課題をクリアしたのが、オメガの「スピードマスター レーシング」が載せるキャリバー9920である。シリコン製のヒゲゼンマイを持つにもかかわらず、このムーブメントは、普通の緩急針のようにヒゲゼンマイをいじって、精度を調整できる。

キャリバー9920

キャリバー9920の写真。ベースとなったのはキャリバー9900。しかし、新しい緩急調整機構の「スピレート™システム」により、さらに精度を追い込めるようになった。また、キャリバー9300同様、テンワの慣性モーメントは21mg・㎠もある。これはETA2892A2の2倍以上も大きな数値であり、現行クロノグラフでは最大級だろう。大きなテンワと新しい緩急調整システムは理論上驚くべき精度をもたらす。

 そのメリットは驚くほどの精度だ。スピードマスター スーパーレーシングは、公式に発表された精度が0秒から+2秒以内という、今までのマスタークロノメーターよりさらに正確になったのである。プレゼンテーションで紹介された個体の精度は、なんと+0.9秒/日、姿勢差誤差は3.5秒/日以内。もともと正確だったオメガ「マスタークロノメーター」の精度は、さらに正確になったわけだ。

 ちなみにオメガの発表する数値は、あくまでも時計を静止させたときの静態精度である。しかし、筆者の見聞きする限り、オメガの静態精度は限りなく動態精度、つまり動かした状態での精度に近い。スピードマスター スーパーレーシングは、腕上でも0秒から+2秒以内という精度をたたき出すだろう。