2021年、オンリーウォッチの為に一点製作されたプロトタイプは、約5億6000万円という高額で落札された。そして2023年、2作目となるモデルはプラチナケースで制作される。時刻を表現する“手”は部品を軽量化する必要があったため、チタニウムを彫って製作されている。
F.P.ジュルヌ「FFC ブルー」
FFC ブルーの誕生
「FFC ブルー」の誕生は、まるでおとぎ話のようで、知って損はない逸話である。2009年初め、フランシス・フォード・コッポラ氏の夫人エレノア・コッポラ氏は、シックなクロノメーター・レゾナンスを著名な映画監督である夫にプレゼントした。この贈り物を大変喜んだコッポラ氏は、すぐにその創作者であるフランソワ-ポール・ジュルヌをナパバレーの自身のブドウ畑« Inglenook »にある自宅に招いたのだった。2012年、彼らは経過する時間の様々な表現方法について一緒に語り合った。
そして、コッポラ氏は、先人たちが指で数えていたように時間を表示する方法は、今まで時計技師によって考えられたことがあるかとジュルヌに尋ねた。時刻を示す 1 から 12の数字を5本の指で表示するにはどうすればよいか?このアイデアに刺激を受け、2014年フランソワ-ポール・ジュルヌは、これに挑戦し、その方法で時間を表示する動く手を発明したいと思うに至った。創作意欲を掻き立てられた彼は、同年「FFC ブルー」のプロトタイプを製作しはじめ、2021年のオンリーウォッチに出品されたこの時計は高額で落札された。
限られたエネルギーを統制する
香箱から供給されるエネルギーのみを使用し5日間のパワーリザーブを保証するために、塔に設置され長くて重い針を動かす振り子時計のように、基本輪列と表示輪列の間にルモントワール機構が設置された。毎時40分間、開いたハチの巣箱のような香箱の中に納まる板状ばね、作動装置、偏心ピースを中央持つ歯車の片側にアンクルの一種を備えたルモントワール機構は、ムーブメントにより巻上げられる。
フランソワ-ポール・ジュルヌが、毎時1回作動する脱進機の一種と語るこの機構は、正時に解放され、主要な香箱から供給され蓄積されていたエネルギーが、それと接して作動するフォークの形の部品により、一連の10のカムを動かし手の指の動きを操作する。これらのカムは、手の左側の固定カーソルが 12時位置に配された大型エクストラフラットボールベアリング上に設置された回転分リングとの間に配され、鑑賞することができる。これらは、12時間で1回転し、それぞれが、ばねやレバーを作動させ4本の指の上げ下げと親指の並進運動を操作する。固有の歯型を持つカムの形状により、スティール製のスリングに配されシャトルのようにほとんど摩擦なく指は移動する。
この巧妙なシステムにより、1本の指、または 5時から 6時、9時から 10時の4本の指を作動させるために必要なエネルギーは、常に均一でこれらの作動を安全に行い計時精度に影響が及ばないように決められている。
従来の自動巻きモデルと同じ厚さで製作されている
このような複雑な機構を搭載するにもかかわらず、時計は従来の自動巻きムーブメント搭載モデルと同じ厚さで製作されている。この快挙を達成するために、フランソワ-ポール・ジュルヌは、文字盤を使用せず、伝統的な時分針の代わりに、すでにアストロノミック・スヴランのアニュアルカレンダーで行った大型ボールベアリング上に設置した回転リングを採用した。この修正で数ミリのスペースを得て、熟練彫金師が彫像した連結式の手を配置することができたのだ。
https://www.webchronos.net/features/10632/
https://www.webchronos.net/news/68588/
https://www.webchronos.net/iconic/16639/