1990年代後半に創業した時計ブランドのうち、現在でも強い存在感を放っているひとつとしてウルベルクの名が挙げられる。創業は1997年。才能ある時計師のフェリックス・バウムガルトナーと、審美眼を持つデザイナーのマーティン・フレイによって立ち上げられた。バウムガルトナーとフレイは過去22年間にわたってともに事業を進め、伝統的な時間表示の限界を押し広げ、規格外の創造性を発揮した時計作りで確固たる地位を築き上げてきた。そのウルベルクの新作には、ブランド初期に発表されたモデルを思い起こさせるものがある。「UR-101」および「UR-102」以降、ブランドの特徴となってきた軌道上を動くサテライト表示を搭載している点だ。ただし、これらとは設計が大きく異なる。今回は新作の詳細をお伝えする。
Text by Logan R. Baker
ウルベルク「UR-100 スペースタイム」
ウルベルクの創業初期を思い起こさせるデザイン
ウルベルクの新作は「UR-100 スペースタイム」。そのシリーズはウルベルクの初期にさかのぼるものである(リファレンス番号がUR-101/102よりも若いものとなっている点も注意されたい)が、これは既存のデザインを繰り返すという意味ではない。新作は、ふたつの天文学の表示機能を腕時計において初めて取り入れたものだ。
軌道上を動くアワーサテライトで時間を表示するUR-100 スペースタイムでは、これまでディスプレイのシステムを覆い隠していたケースカバーが取り除かれている。時計中央に位置する軸は、軽量なアルミニウム製の3本のカルーセルシステムのアームを支え、それぞれのアームは4つのアワーマーカーを備えた、ベリリウムブロンズ合金のピラミッド形の回転体につながる。カルーセルは3時間で1回転しつつ時間を表示する仕組みとなっている。カルーセルは部分的にオープンワークが施されているが、時間表示に関わらないときのインデックスはアルミニウムブリッジによって隠されている。
ふたつの天体ディスプレイを有する
時はアワーサテライトによって表示され、各アームの先端にある赤い針が、3時間ごとに回転するカルーセルにともなって文字盤上を動き、分を指す。このスタイルはオーデマ ピゲのスターウィールやオートランス、そしてアーノルド&サンなどで近年見られるものだ。60分経過後に、時間表示の赤い針は見えなくなり(すぐに後ろで控えている針が取って代わる)、補助文字盤の下や間を通りながら、天文に関するふたつの表示を行う。ひとつは地球の自転による移動距離で、もうひとつは太陽に対する地球の軌道上の運行距離を示す。
自転による距離を表示するためのインジケーターは、通常の時計の9時から11時位置にかけて配されている。地球は平均で20分間に約555kmの自転をしており、この機構はその事象を示すものだ。対して、2時位置からは地球の公転距離が示されており、これは20分間で約3万5742kmという情報に基づいている。
限られた範囲内で針が文字盤全体を動きつつ、3つのインジケーターすべてを正確に表示させるため、ウルベルクによれば、この設計を完璧なものとするのに約2年もの研究開発期間を要したという。針は下向きのカーブがついていて、時間表示と同時にドーム型のサファイアクリスタル製風防内に位置する天文表示を滑らかに移動するようになっている。この微細な調整を見ると、UR-100は繊細すぎるように思えるだろうが、バウムガルトナーと彼のチームによってゼニスのエリートムーブメントを完全に再構築・再解釈したウルベルクのキャリバーUR 12.01のおかげで、その部分は担保されている。
キャリバーUR 12.01の層状の構造を成す3枚のベースプレートは、ウルベルクがすでに何年も採用しているARCAP合金だ。自社開発素材ではないが、ウルベルクは時計作りにおいてこの合金を採用するメリットを見いだした最初のブランドのひとつだ。アメリカの大手金属加工会社であるヴィスタメタルズ(VistaMetals)によると、ARCAPはニッケル、銅、コバルト、亜鉛からなる合金であるという。お気付きかもしれないが、鉄が上記のリストには含まれていない。ということは、ARCAPは磁場による影響を受けにくく、そして腐食や温度変化、張力に対して強い耐性を持っているのだ。
このブランドの長年のフォロワーにとって、UR-100 スペースタイムのケースバックの仕様は驚くべきものだった。ウルベルクでは初めて、ムーブメントの巻き上げシステムが可視化されたのである。自動巻きローター自体は風変わりではないようだが、実際には遊星タービンシステムを備えるもので、これによって過剰な巻き上げと摩耗を防いでいる。このシステムをウルベルクは「Windfäng」と呼び、これはスイス・ジャーマンの言葉で「エアートラップ」を意味する。過度な巻き上げを防ぐタービンシステムの他に、ローターの全体に穴が穿たれ、全体的な軽量化が図られている。そして最後にムーブメントの仕上げだが、サーキュラーグレイン、サンドブラスト、ヘアライン、ネジ頭のすり割りなどが施されている。
八角形ケースの採用も、ウルベルクでは初となる。ウルベルクの時計は、遠目でも分かるオーバーサイズの時計として知られているが、UR-100のサイズはどちらかというと控えめで、すぐにそれと分かるわけではない。直径41mmで厚さ14mm、ウルベルクのコレクションの中では最も着けやすいモデルであり、他に着用しやすいサイズというとUR-101や102が挙げられる。時計の外装部分のほとんどはヘアライン仕上げだが、ケースサイドには垂直の刻みが施され、時計の外観にエッジを効かせている。他の多くのウルベルクの時計同様、リュウズは12時位置であるが、今回ファンのためにもうひとつサプライズが用意されている。リュウズのトップにあしらわれたUとRの組み合わせは、今回が初出である。
インスピレーションの源は19世紀の振り子時計
新作UR-100のデザインの発想源は、フェリックス・バウムガルトナーにとって特別なクロックにある。バウムガルトナーの父親は、すでに引退しているが、世界的に知られたクロックの修復師だった。彼はかつて19世紀の振り子時計をアンティークショップで、その時はあまり深く考えずに購入した。そのレギュレータースタイルの文字盤は時間を表示するものではなく、赤道上の地球の回転距離を示すものであった。特に長い振り子は2.16秒で1振動し、それが1kmとなる。メインの文字盤は1万kmを表示し100kmごとの目盛りがついている。つまり1/2振動では地球の赤道上を500m移動した分を表示することになるのだ。12時位置のサブダイアル(10km)は、10目盛りに分かれており、6時位置のサブダイアルは全体で地球の赤道上の外周とほぼ同じ4万kmを示し、1000kmごとの目盛りがついている。この時計は1893年に行われたシカゴ万国博覧会のために、19世紀から20世紀にかけてマスタークロックメーカーであったギュスターヴ・サンドによって製作されている。バウムガルトナーの父親は、この時計を息子に贈り、現在はウルベルクのジュネーブ本社に展示されている。
このような点に話が及ぶと、UR-100 スペースタイムの天体ディスプレイは、機械の構造の面白さ以上に、ロマンティックで理論的な楽しみ方をユーザーに訴求するように思える。しかしコンセプトとしては、典型的なウルベルクのスタイルから、ディテールを楽しめるよう考え抜かれて具現化されたものである。文字盤にオープンワークを施し、サテライト表示の内部機構を見せるUR-100 スペースタイムは、着用者にパーソナルな体験を提供してくれる。まさにウルベルクらしい全体のデザインで、時間と宇宙とのつながりは、きっとオーナーを楽しませ、周囲の人々の興味をもかき立てるであろう。
UR-100スペースタイムは2種類あり、いずれも世界限定25本である。UR-100 スペースタイム/アイロンはチタンとステンレススティールを組み合わせたもので、UR-100 スペースタイム/ブラックは同じチタンとステンレススティールの組み合わせだが、ブラックDLCコーティングが施されている。現在は上記の2種類だが、ウルベルクから今後数カ月または数年のうちに他のケース素材の提案もあるのではと思われる。
ウルベルク 公式サイト https://www.urwerk.com/