タグ・ホイヤー
カレラ キャリバー ホイヤー01 クロノグラフ

point

・価格が非常に魅力的
・人目を引く複合的なケース
・細やかに長さ調節が可能なストラップ

point

・視認性が低い
・ムーブメントの加工に甘さがある

複合的ケースが目を引く 「カレラ キャリバー ホイヤー01 クロノグラフ」。 挑戦的な価格で大胆に切り込んだ

 

世界初の自動巻きクロノグラフを巡って

  今回の3つのモデルは、すべて自社製の自動巻きクロノグラフムーブメントを搭載している。これらのブランドは、1960年代末期に世界初の自動巻きクロノグラフの開発で競ったメンバーだ。ゼニスは単独で、ブライトリングとホイヤーはそれぞれムーブメントのスペシャリストだったがタッグを組み挑んだ。かくして戦いの火蓋が切られたのは1969年。両陣営のクロノグラフはほぼ同時に売り出された。もっとも、同年のそれらより数週間早い時期にセイコーが達成して発表していたのだが、それでもブライトリングとホイヤー、そしてゼニスによるスイスの自動巻きクロノグラフは大成功を収めた。しかしそれは長く続かなかった。1970年代に入ると、機械式よりはるかに正確なクォーツ式の普及によってスイス時計産業に危機が訪れたのだ。たちまち安価なクォーツ時計が出回り、機械式ムーブメントは冬眠の時代に突入したのだった。
 それから歳月を経て、ゼニスが1969年に開発したクロノグラフムーブメント、エル・プリメロを基にしたものを使用している間に、タグ・ホイヤーもブライトリングも、今やそれぞれ新たに機械式の自動巻きクロノグラフムーブメントを作り上げた。ゼニスのエル・プリメロが生き延びられたのは偶然のことだった。〝クォーツ・クライシス〟となり、機械式ムーブメントの製作機器類は保存を断念され、処分される予定になっていたところ、クロノグラフ製作部の部長がそれらを屋根裏に取っておいたのだ。機械式時計がラグジュアリーアイテムとして見直され、再び作られるようになった時、ゼニスの経営陣は一社員が独断で行った機器類救出に感謝したという。このようにしてエル・プリメロは、いち早く再生産に入れたのだった。
 

 ブライトリングは2009年に自社開発のキャリバー01をようやく発表し、再びクロノグラフムーブメントを作り出すようになった。翌年には、タグ・ホイヤーも他社から引き継いだクロノグラフムーブメントをモディファイして、初の自社ムーブメントとして製造している。興味深いのは、それが歴史的な自動巻きクロノグラフ開発競争における第三の主要メーカーだった日本のセイコーからだということだ。これは、スイスの時計界では、今までにない出来事である。
 それに際し、タグ・ホイヤーはセイコーが1998年に開発したムーブメントを熟慮の上で選択した。これはクロノグラフの制御がコラムホイールによる優雅なもので、スイングピニオンを使用した構造になっている。この方式のクロノグラフの切り替えは、ブランド創設者のエドゥアール・ホイヤーが考案して、1887年に特許を取得している。その上、このセイコームーブメントは、効果的なカギ爪形状の巻き上げ機構が技術的に目を引く。
 テストしたモデルには、2010年に登場したキャリバー1887にさらに手を加えたキャリバー ホイヤー01が搭載されている。2010年当時のものから直径が大きくなって、厚さは減り、脱進機はまるごと取り替えられた。ブリッジ類やローターも替えている。クロノグラフブリッジとローター、デイトリングは肉抜きされた。コート・ド・ジュネーブと鏡面に磨かれたネジが、ムーブメントを一層品良く見せている。しかし、キズ見を通して見ないと分からない程度だが、レバーは打ち抜きで作られた痕跡が残っているものが使用されている。スタート/ストップボタンの押し心地は極めて軽やか、目にも鮮やかに赤く塗られたコラムホイールはスムーズに動く。同様に、リセットボタンもわずかな力だけで作動する。しかし、日付が切り替わるのには小一時間ほど掛かる。それに対して、ブライトリングとゼニスは瞬時切り替え式だ。