右:つややかに磨かれた尾錠は、しっかりネジ留めされ、横幅も堂々たるもの。パネライではおなじみの頑健なスタイルだ。
良質なムーブメント
搭載されている手巻きキャリバーP.5000は、2013年にパネライがリシュモンのムーブメント開発集団であるヴァルフルリエとともに成し遂げた、まさに良品と言うべきものだ。機能はシンプルながら駆動性に優れ、価格を比較的低めの74万円に抑えることができている。自動巻きに仕立てず、ストップセコンドやパワーリザーブインジケーターも設けていないのは、シンプルこの上ない。仕事の質の高さは、構築における仕上がりの良さが、そこかしこに見られることからも分かる。テンプ受けは、よくある片持ちではなく両持ち。テンプ受けの両端に据えられたふたつのネジが上からしっかりと押さえつけているため、調速機が衝撃を受けても天真の位置は適度に調整される。テンワは温度変化に強いグリュシデュール製。4つのバランスウェイトスクリューが微調整を受け持つフリースプラング式である。
数を抑えつつ堂々たる寸法で作られた部品は、基礎構造のしっかりしたこのムーブメントにふさわしい。がっしりとしたスポーティーなムーブメントの大きさは、普段使いの時計として、見るからに頼もしさを感じる。キャリバーP.5000の部品総数は127個。うち、21個はルビーが占める。厚さは4・5㎜、どこから見ても華奢さはない。ビジュアル的には特上品の風格はないが、みっしりと身の詰まったムーブメントのほとんどを覆うようなブリッジに、頑強さを重視するパネライらしさが表れている。
パネライらしさはムーブメントの仕上げにも見て取れる。ブリッジの表面は細やかなサテンで装飾され、彫り込まれた文字には青い塗料が流し込まれている。鏡面に磨かれたネジ頭と穴石の周囲はダイヤモンドカットで面取りされ、ブリッジのエッジも同様に面取りされている。面取りのわずかな表面は、磨かれてさえいるかのように見えるのだが、ルーペを通して見ると、細かいフライス作業の跡が分かるだろう。
こうした工業的な雰囲気を残す装飾加工は、現行のパネライムーブメントのすべてに共通しており、実用時計としてのブランドコンセプトにも合致していると言えよう。しかしながら外観上の短所はある。直径35・7㎜のムーブメントの大きさに対して、テンワが小さ過ぎるのではないだろうか。この特徴は、P.2000系のムーブメント(手巻きおよび自動巻き)にも共通している。一方、P.2000系より新しい手巻きキャリバーP.999とP.3000のテンワは明らかに大きい。その中間のサイズが、自動巻きのキャリバーP.9000系だろう。