【86点】ブライトリング/トランスオーシャン・クロノグラフ・ユニタイム

2013.04.03

クラシックな形状のケースと高く盛り上がった風防が典型的なトランスオーシャン。歴史的なモデルを基にしつつもケースサイズを大きくし、現代的な要素を融合させている。

設定方法に技あり

このモデルの使い勝手の良さは、つまみやすい非ねじ込み式リュウズからも謎解きができそうだ。1段引き出すとタイムゾーンの設定を変えられるが、2段目まで引くと通常の針合わせが行える。その際、秒針が止まるので、時報にもきっちりとシンクロさせることが可能だ。針合わせにつれて24時間リングは動いても、都市名が記されたタイムゾーンリングは動かない。これがワールドタイマーとしてあらまほしき姿なのだ。クロノグラフのプッシュボタンの押し心地もスムーズで、十分に望ましく仕上がっている。

では、日付修正についてはどうだろうか。これには時針だけを早送りして、零時を越えさせる作業が必要になる(タイムゾーンの設定変更により、時差で日付がまたがる場合も自動的に切り替わる)。日付表示だけが動いて切り替わるクイックコレクト機能が備わっていないものの、リュウズが両方向に回せるために、日付を進めることも戻すこともできるのは実に小気味よい。タイムゾーンの設定を操作しても分針と秒針には変化が出ず、変更作業中も時間は淀みなく進んでいく。その上、クロノグラフのランニング中でもタイムゾーンの修正ができるようになっているのだ。クロノグラフ以外はリュウズひとつで操作可能なのは、機能性に優れたメカニズムと言えるだろう。ただし、タイムゾーンを変更しようとしてリュウズを1段だけ引き出すつもりが、針合わせポジションの2段目まで引き出してしまい、ストップセコンドが働いて秒針が動きを止めてもそれに気付かず、分針を回してしまうということは、少なからずあるだろう。これはタイムゾーンをふたつのプッシュボタンで前後させる方式では起こらないことだ。

この新しいユニタイムには、珍しい点がもうひとつある。決まった都市名の横に赤い太陽のマークを付け、サマータイムに対応しているのだ。サマータイムは12のタイムゾーンで採用されていて、実施期間は半年に及んでいる。つまり、全体の半数のタイムゾーンはサマータイムは関係ないので、区別が付くのは実用的と言えるだろう。

しかし、このモデルでも、ワールドタイマーにおける基本的な問題点は解決されていない。インドやベネズエラ、オーストラリアの一部などの時差30分の地域に対応していないのだ。従来のものと同様に、区分は24ゾーン、都市名の表記も24都市にとどまっている。国内に時差のあるアメリカなどは、リング上に記載のないデトロイトはニューヨークと同じタイムゾーン、といった具合に把握しておく必要がある。そして、デトロイトから280マイルしか離れていないシカゴの正しい時間を知るには、メキシコのタイムゾーンを見なくてはならない。

次に浮上して来るのが、北米と南米間、欧州とアフリカの時差のややこしさだ。例えば、アフリカ南西部のナミビアは、ドイツのサマータイム期間はドイツとの時差が+1時間で先に進むが、ナミビアのサマータイム期間が始まると、今度はドイツの方が時差+1時間となり、ナミビアに先んじて時間が進んで行く。国によって、サマータイムの期間が異なっているのだ。しかし、国々で差が生じない期間もある。ちなみに、昨年2012年は、ナミビアのサマータイムの始まりは9月2日、ドイツのサマータイムの終わりが10月28日だった。こうした情報は、時計を見ただけではもちろん知り得ない。これはブライトリングのワールドタイマーに限ったことではなく、既存のワールドタイマー全般のウィークポイントなのだ。それと同じように、各国のサマータイムの実施が変更される場合にも、その都度問題が生じる。例えば、ロシアでは2011年10月から永年サマータイム制を導入し、夏時間・冬時間の区分の撤廃が決定された。今作のユニタイムはすでにそれに対応しており、モスクワは正しいタイムゾーンの位置に記載され、サマータイムマークである太陽も付けられていない。もっともロシアでは、以前の決まりごとに戻したいという動きがある。ロシアでは冬場は夜明けがかなり遅くなるため、国民と、恐らく肝心のプーチン大統領も、永年サマータイム制には納得し難かったのだろう。こうした人間界の事情は、当然ながらいち時計が順応できることではないのだ。

ところで、ブライトリングは、ETAがムーブメントの供給制限計画を明らかにした11年前に対策に着手した。現在、ETA社は、グループ外のブランドには以前より少ない量しか供給せず、かつてのように外部の取引先とともに成長するという状況にはない。ブライトリングは5年間の開発と生産体制の準備を経て、2009年に初の自社開発クロノグラフムーブメント、キャリバー01を発表。以降、セカンドタイムゾーン付きのキャリバー04、手巻きで24時間表示付きのキャリバー02と、バリエーションを増やしてきた。まだキャリバー03は発表されていないが、キャリバー05として登場したのがこのワールドタイマーである。今のところ、同社の自社開発ムーブメントの中ではこれが最も複雑な付加機能を持っている。

垂直クラッチにコラムホイール、そして、両方向巻き上げ式自動巻き機構を備えたこのムーブメントは、ブライトリングの目下の最高峰だ。さらに、ストップセコンド機構と瞬時切り替わりの日付表示も完備。また、ガンギ車の軸には保油装置が備えられている。緩急針と偏心ネジによる緩急調整のあたりが、ムーブメントの上級さに唯一見合っていない箇所だろう。しかし、信頼性があることには変わりはない。というのも、ブライトリングのすべてのムーブメントは、スイス公式クロノメーター検査機関であるC.O.S.C.の精度基準をクリアしているのだ。このムーブメントの大きな強みは、約3日間のパワーオートノミー(ゼンマイ巻き上げ完了から完全停止までの走行持続総時間)があることだ。ユニタイムを金曜の夜に腕から外して置いたままにしておいても、月曜の朝に再び着ける時には止まっていない。保証期間が5年間あるのも、精巧なムーブメントへの信頼の証しだろう。