【82点】カール F. ブヘラ / パトラビ エボテック デイデイト

2011.01.29

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下方に大きく伸びたラグの恩恵により、
パトラビ エボテック デイデイトはサイズのわりに手首へのなじみが良い。

メインストリームに追随せず、ひと目で認識できる独自のデザインは美しく、見事な仕上がり。ケースのフォルムがスモールセコンドのフレームで再現されている。厚みのあるラバーベゼルを備えたステンレススティール製スリーピース構造のケースは良好な作り込みで、ラグの内側にまでポリッシュがかけられている。

緩慢なローター

「私たちは意図してETAプゾー7001に似せたわけではありません。選択した脱進機による必然的な結果なのです。私たちの選んだASUAG No.8は、ニヴァロックス社が製造する定評のある脱進機で、ETAプゾー7001にも搭載されています。この脱進機と必要なエネルギーおよび振動数から減速比が求められ、最終的にはこれらのパラメーターに基づいて輪列が定義されます。これをベースに歯形が算出され、最適化されるわけですが、この作業はTHA社(現CFBT社)で行われました」

では、技術仕様書が求める第2の点はいかに実現されたのだろうか。ブリッジやその他の部品を十分に鑑賞できる“進歩的な設計のキャリバー”については、伝統的な機構とは異なり、斬新なシステムを考え出す必要があった。大多数の自動巻きキャリバーに見られるような、ローターを中央に取り付ける従来の手法では、ムーブメントの一部が常に隠れた状態になってしまう上、ローターで隠れる範囲に付加機能を取り付けるのは不可能に近い。ローターをオフセットして取り付けた場合も同じである。地板に内蔵できるマイクロローターなら、他の部品を覆い隠すことはないが、サイズが小さいことから高い巻き上げ効率は期待できない。また、マイクロローターの場合は、ローターをかなり重く作る必要があるため、短期間で摩耗する恐れがある。最終的に、カール F.ブヘラの開発チームには第4の道しか残っていなかった。ムーブメントの外周を回転するローターの開発である。

この解決策では、良好な巻き上げ効率を確保しつつムーブメントへの視界を妨げないという、ふたつの利点を両立させることができる。少なくとも、理論上は可能である。我々のテストでは、キャリバーCFB A1001を効率よく巻き上げるには、動きを与え続けると効果的であることが証明された。カール F.ブヘラが設計したペリフェラルローターと古典的なセンターローターを比較すると、センターローターのほうがはるかに効率的に巻き上げることが分かる。特に、非常にゆっくりとした回転運動の場合、センターローターはペリフェラルローターよりも重力に引っ張られることが多く、常に地球の中心に向かって動こうとするが、カール F.ブヘラのペリフェラルローターはこれとは異なり、同じ位置にとどまっている時間がセンターローターよりも長く、ペリフェラルローターを動かしはじめるにはある程度大きな動作を与えなければならなかった。我々のテストのアドバイザーであるウィーン・ロースハウス、シューリン時計宝飾店のマイスター時計師、ミヒャエル・ベルナシェク氏は、この現象を詳しく検証したいと考え、自身の工房で実験を行い、一般に流通している複数のローターシステムを比較した。結果、ベルナシェク氏もやはり同じ見解に辿り着いた。

「カール F.ブヘラのローターの回転はやや緩慢なので、ローターが自分の義務を果たすためには、小さな衝撃を常に与え続けなければなりません」
当然、次のような疑問が湧くだろう。デスクワークを続けていても、十分な巻き上げ効率を得ることができるのだろうか。長時間、わずかな動きしか与えない場合はどうなるのだろうか。これについて、アルブレヒト・ハーケ博士は次のように説明している。
「ユーザーがゆっくりとした動きしかしなかったとしても、巻き上げ不足の問題が発生するとは思えません。サントコアでの最終チェックでは、パワーリザーブを検査するさまざまなテストに加え、すべてのムーブメントがサイクロイドマシンで4時間もの間、1分間に1回転という速度で巻き上げられます。その結果、4時間の巻き上げ時間も含めて、約20時間の巻き上げ残量が確保されなければなりません。このテストは、オフィスワーカーが着用した場合でも巻き上げ不足という問題は発生しないことを十分に実証していると、私たちは考えています」


60年代、パテック フィリップが
すでにペリフェラルローターを採用

ペリフェラルローターを考察する上で興味深いのは、パテック フィリップが1960年代に、これと同じタイプのローターを装備したキャリバー350を製造していたという事実である。だが、当時はこのムーブメントに特別な栄誉がもたらされることはなかった。なぜなら、当時の350系には常に巻き上げ不足の問題があり、70年頃にはパテック フィリップが生産を停止してしまったからである。もちろん、キャリバーCFB A1001とキャリバー350の間には約40年もの年月の経過があるので、開発技術も性能もその分、進化しているのは当然である。あまり腕を動かさないユーザーや、自動巻き時計の巻き上げ不足に一度でも悩まされたことのあるユーザーにとって、パトラビ エボテックなら数日間、着用してみる価値はあるかもしれない。

ローターを設計する際にカール Fブヘラが特に重視したのは、信頼性の高い耐衝撃装置である。この耐震機構は、ダイナミック・ショック・アブソーバー(DSA)という商標で登録されている。ペリフェラルローターはDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)コーティングが施されたローラーで支えられており、これをさらにセラミックス製のボールベアリングが支持する仕組みになっている。ボールベアリングとローラーで構成される構造体は、可動式のシーソーに固定されており、シーソーの位置はスプリングアームによって正確に規制される。このシーソーの調整は偏心カムによって行われる。ペリフェラルローターの回転動力は、伝達車によって巻き上げ用の輪列に伝えられる。この伝達車の軸の上下にはインカブロック耐震装置がふたつ装備されており、衝撃が加わっても伝達車の軸が折れたりせず、ペリフェラルローターとの接触も常に確保されるようになっている。著しい衝撃が与えられた場合は、ペリフェラルローターが左右に振れないようにブリッジの縁で押さえられる。また、ペリフェラルローターの軸方向の遊びも、特殊な形状のネジによって制限されており、ペリフェラルローターがケースバックに叩きつけられることがないように設計されている。

技術仕様書で要求された通り、ムーブメントを鑑賞するための視界を確保するキャリバーの設計は、まさに大成功と言えるだろう。また、古典的なムーブメント設計の対極にある独自の道を行くキャリバーCFB A1001は、鑑賞する価値も十分に備えている。伝統的な表面装飾に代わる現代の代替案には、当然のごとく課せられた要求に期待以上に応える新しい様式美が与えられているのだ。
精度調整においても、カール F.ブヘラは妙案を編み出した。セントラル・デュアル・アジャスティング・システム(CDAS)と呼ばれる緩急調整機構である。これにより、極端な衝撃が加わっても緩急針と可動式のヒゲ持ちが飛ばないようになっている。