自社製キャリバー956の起源は1949年に遡る。
その先祖は音の大きな手巻きキャリバー489だ。
ただし、アラーム時刻は、他ブランドが出しているアラーム時計やジャガー・ルクルトの別のモデルのほうが、もっと詳細に設定することができる。多くのモデルでは12分刻み(5分の1時間)や10分刻み、またはその半分の長さでも設定できるのに対し、マスター・メモボックスには4分の1時間(15分)を示すアラームインデックスしかない。そのため、ユーザーはアラーム時刻を最小7・5分単位で設定することでよしとしなければならない。いずれにしても、目覚まし用に使用するならばこの間隔でも十分である。しかし、ビジネスシーンでスケジュール管理に使用する場合には、アラームを少し早めに設定しておいたほうが賢明だろう。そうすれば、かえって時間にも余裕ができるだろう。
アラームインデックスは、調和の取れたトータルデザインを壊さないよう、やや遠慮がちに控えている。文字盤中央には回転ディスクが装備され、その外周部にある三角形の蓄光アローがアラーム時刻を指し示す。時刻はいつでも快適に読み取ることができ、アワーマーカーに溶け込むように文字盤外周部に配された日付も、視認性は完璧である。
残念ながら、時・分針の蓄光面は極めて細く、この部分にあらかじめ光を当てておかないと、暗所ではアワーマーカーを補足するポイントインデックスとアラーム時刻を示す三角マーカーしか光らず、夜間など時刻を読み取ることができない。
自動巻きと手巻き
ジャガー・ルクルトのアラーム機能搭載ムーブメントに自動巻きローターが載せられるようになったのは、1956年からである。アラーム機能付きの初代自動巻きキャリバーは815と呼ばれ、ローターが半回転しかしないバンパー式自動巻き(ハーフローター)機構であった。今では両方向に回転するローターが主流だが、そもそもローターの役割は今日も当時と変わらず、ムーブメントにエネルギーを供給する主ゼンマイを巻き上げる以外にない。アラーム機構には専用の独立した香箱があり、2時位置にある第2のリュウズを使用して手で巻き上げる。巻き上げ終わったら、リュウズを引き出し、手前に回すとアラーム時刻を、反対方向に回すと日付を合わせることができる。両者の回転方向を間違えないように、リュウズには日付を意味する“D”の文字と、日付設定時の回転方向を示す矢印が付いている。シンプルだが、非常に合理的な解決方法である。間違った方向に少しでも回してしまうと、アラーム時刻ならまだしも、日付の場合はもとの数字に戻すまで1カ月分、回し続けなければならないからだ。
日付早送り機構は極めて正確に噛み合う。そのため、日付表示は瞬時切り替え式ではなく、日付が替わるのに時間がかかる。真夜中に2時間もの間、日付ディスクが斜めになった状態で日付窓からのぞいても、日付表示の正確さゆえ、その点を大目に見ることができるだろう。4時位置にあるリュウズは、停止した時計を再び動かしたい場合に、ムーブメントを手で巻き上げるのに使用する。引き出しポジションは1段しかなく、時針と分針はこのポジションで合わせる。
マスター・メモボックスの操作は理にかなっており、覚えるのも簡単だ。ただ、ふたつのリュウズを引き出す操作だけは、快適とは言い難い。刻み目がケースに近い側に付いているため、爪を使って引き出さなければならないからだ。
こうして操作するムーブメントは、ジャガー・ルクルトならではである。モダンで機能的、トリックに富んだ設計で、装飾も魅力的だ。テンプの振動数が4Hzで、補正ネジと自由振動ヒゲによるフリースプラング方式を採用したのは時宜にかなった選択といえる。機能性の高さを証明するのは、両方向に巻き上げるボールベアリング式ローターである。アラーム機構の配置は、まさに設計上のハイライトではないだろうか。ゴングは重厚な裏蓋の内側を一周するかたちで配されており、ケースバック中央からムーブメントに向かって突起するジャーナル(軸受けで支えられた軸の部分)をアラームハンマーが叩く。クライマックスは、ローターのベアリング部分に入れられた切り欠きである。ここにジャーナルがはまることによって、ハンマーの尖端はローターの下でジャーナルを叩くことができるのだ。