セーリングを楽しみながら、「ポルトギーゼ・ヨットクラブ・クロノグラフ」を着けた腕に目をやると、海原によく映えると誰しも思えるだろう。だが潮風を存分に堪能した後にヨットハーバーへ戻り、陸に上がってくつろぎながら散策する時、ふと気付くはずだ。この時計の存在感は街中でも薄れることがない、と。
スポーティータイプのポルトギーゼ第3世代は単にマリンウォッチとしてだけではなく、明らかにラグジュアリーなアクセサリーとして成り立つコンセプトに基づいている。そうした印象をもたらしているのは鏡面とサテン仕上げを緻密に組み合わせたケース、 シルバーメッキが施された文字盤、艶やかに磨き上げられた針だ。こうした加工はすべて文句の付けようがないほど上質で、エレガントなポルトギーゼシリーズにはふさわしい。
中でも特筆すべきはブレスレットだ。登場から10 年経過したヨットクラブは従来、ラバーもしくはレザーのストラップのみの展開だったが、このモデルではステンレススティールブレスレットを初めて採用している。センターに鏡面のコマ、両サイドにサテンで仕上げたコマを組み込んだブレスレットはがっしりと頑丈な作りだが、それでいて気品が漂う。長さを詰めて短くする場合は、それぞれの中ゴマに開けられた穴を先端の細い工具で押した状態でコマの側面からさらに同様の工具を差し込むと、ピンが出てきてコマを取り外すことができる。また、長めにしたいときは片開き式のバックルで簡単に微調整可能だ。バックルのIWCロゴを押すと段階的に7mmほど延長できるのだが、それが着用したままでも行えるのはありがたい。丁寧に加工されている上に作りがとてもしっかりしていて、実によく考えられたバックルだ。
ディテールの変化
ブレスレットに加え、文字盤上にも以前のモデルからの変更が見られる。クロノグラフ秒針は色が赤からブルー(メタリック)カラーになり、3時位置にあった日付表示は6時位置のスモールセコンド内に移動した。これらふたつの変化によりヨットクラブの気品がさらに増したのは、クロノスドイツ版編集部としては高く評価したい。
このエレガントな表情は、相反するかのように堂々たるサイズにも良い効果をもたらしている。以前は43.5mmだったステンレススティール製ケースの直径は44.6mmになったのだが、素直な感想としては、これほどの大型サイズがすんなり収まる手首の持ち主はそうそういないように思える。
大きく、重さもずしっと感じるこの時計がそれでも実に快適な着け心地なのは、人間工学に基づき下方へカーブが付けられたラグと動きのよい連結コマの優れた設計ゆえだろう。ブレスレットがしなやかでフィット感が良いのはコマの間に十分隙間を持たせているためなのだが、その分毛が巻き込まれやすいという面もある。
信頼感の高い技術力
ムーブメントは頑強で高性能として知られる自社開発キャリバー89361を引き続き使用。約68時間のパワーリザーブを持ち、自動巻きはIWC独自の両方向巻き上げのペラトン式、テンプには温度変化の影響が少ないグリュシデュール製テンワに緩急針を廃したフリースプラングを採用。クロノグラフの制御に伝統的なコラムホイールを使用し、リセットから素早くリスタート可能なフライバック機能を備えている等、数多くの利点がある。ブリッジに入れられた金色のエングレービングは、金色プレート付きの透かし彫りローターと共にアクセントを成し、文字盤との対比も目に楽しい。
このムーブメントでさらに注目すべきは、60分と12時間のふたつの積算計が合体した構造だ。文字盤の12時位置に置かれたひとつのインダイアルで同軸上に表示され、計測時間は通常の時刻を見るように長短2本の針で読み取る。そのためストップウォッチとして利用する場合、即座にタイムを認識するには表示がやや小さい。加えて文字盤外周の秒目盛りが細かく分割されているにもかかわらず、中央から伸びるクロノグラフ秒針が十分にその目盛りに達していないのは残念だ。視認性については通常の時刻と日付の読み取りは問題ないが、クロノグラフに関しては数字がぱっと見て分かりやすくはないといったところか。
精度は極めて優秀
精度をチェックすると、このムーブメントの実力が改めて分かる結果となった。歩度測定器にかけたところ、平均日差はプラス0・8秒とごくわずかで最大姿勢差は4秒。クロノグラフ作動時もほとんど同じような数値にとどまった。2週間にわたる着用テストでは、毎日の日差はゼロからプラス2秒の域を出ていなかった。普段使いの腕時計として頼り甲斐があると言える。
ところで今回取り上げたヨットクラブは以前から変わっていないところもあり、やや複雑な思いも抱いてしまう。それは防水性能が6気圧という点だ。これは基本的に静止状態ならば水深60m地点でかかる水圧まで耐えられることを意味するので、一見するとかなりあるように思えるが、あくまでも研究室内の装置による試験結果にすぎない。セーリングと結び付けられた上質なマリンウォッチの防水性能としては、物足りなさを感じてしまうのも事実だ。船上で水しぶきが当たったり、波をかぶってしまったりすることを想定するならば、少なくとも10気圧防水が望ましいところではないだろうか。
現状ではそこまでの防水性能を備えたモデルは、潜水時の使用を明らかに目的とした時計を除いて、ウォータースポーツウォッチにはまだ多くはないが、実用する際のひとつの基準にはなるはずだ。それを踏まえると、セーリング中に着用してデッキに立つ場合は多少気を付けたほうが無難かもしれない。むしろヨットハーバーのレストランでディナーを楽しむ時などに着けると、雰囲気が一層盛り上がりそうだ。
爽やかでスポーティーなこの新型ポルトギーゼ・ヨットクラブ・クロノグラフは着用シーンが波の近くでも遠くでも、海の男のスピリットをエレガントに伝えてくれるのだ。