【86点】オメガ/シーマスター 300

2022.05.30

 2014年、オメガは1957年に発売されたリファレンスナンバーCK2913の復刻版として「シーマスター 300」を新たに発表した。そして2021年にはディテールの変更を行い、このモデルは大胆に進化している。新たな見どころはどこにあって、技術的にどのような改良が行われたのか? そして、そのために14年モデルが従来の選択肢から外されてしまうこともあるのでは?

シーマスター 300

2021年に発表されたシーマスター 300の最新モデルは、今回テストを行ったブルー文字盤の他に、オリジナルを継ぐブラック文字盤と、ブラウン文字盤のブロンズゴールドモデルが用意されている。

初代の特徴を色濃く残したデザイン

 今回のテストモデルとしてクロノスドイツ版の編集部に届いたのは、潜水時間を計測するための目盛りが付いた回転ベゼルと文字盤が青いモデルである。その理由はこれがステンレススティールケースで販売されていることを、編集部が大いに気に入ったからだ。2014年当時、このモデルの青バージョンはプラチナとチタンでしか作られておらず、チタンケースのものは黒文字盤のステンレススティールモデルよりも3割近く高価だった。今回の刷新されたシーマスター 300はステンレススティールなので、青文字盤だからといって高価ではないのはうれしいところだ。そして残念なことに現在チタンモデルは廃番になっている。

 21年モデルと14年モデルでは基本的なデザインは似ていて、ベースとなった1957年の初代モデルの特徴を色濃く残している。しかし落ち着いて見てみると、異なる点がいくつか目につくはずだ。最新モデルでは、文字盤に初代モデルと同じ書体で「Seamaster 300」と書かれている。秒針の先端はやじり状から蓄光塗料が塗布された円盤状のものに変わった。3、6、9、12時のアラビア数字はグレーではなく、くさび形のインデックスと同じくブラウンベージュで統一されている。2014年モデルでは、インデックスにヴィンテージ風の蓄光塗料が盛られ、文字盤に少し埋め込まれたようになっていた。

シーマスター 300

シーマスター 300の変遷
進化を遂げた歴代モデル。右から1957年の初代モデル、2014年の復刻モデル、そして2021年の最新モデルだ。

 一方で21年モデルでは、蓄光塗料を塗布したプレートの上に、インデックスとアラビア数字をくりぬいたプレートを重ねた、サンドイッチ構造の文字盤が使われているのだ。そして文字盤上で暗がりに浮き上がってくる色の一部は緑になっている。現在では回転ベゼル上のバーと数字の部分にも蓄光塗料が使われているが、以前の数字はリキッドメタルで表示されていた。その頃のベゼル素材はセラミックスだったが、今回の21年モデルはアルミニウム製だ。リニューアルしてベゼルに蓄光塗料がより多く使われ、色調に文字盤との統一感が出たのはよいが、前ほど傷に強くはなくなったのは惜しいところでもある。

 モデル名が示すように、300m防水のポイントのひとつとなるねじ込み式リュウズは、やや小さくなった。形も円柱型からやや円錐型になり、より人間工学が意識されているようだ。リュウズを1段引き出すと時針だけが前後に動かせるようになっていて、時刻を時差に合わせて修正したり、サマータイムを採用している国・地域において、夏時間と冬時間を容易に切り替えたりする便利さは変わらず残されている。秒単位で時刻を修正する場合はストップセコンド機能が役に立つ。リュウズを2段目まで引き出すと秒針が止まり、正確な針合わせができる技術も、今や当たり前のものとなった。

前作の良さを継いだ3連ブレスレット

シーマスター 300

機能的なエクステンションブレスレットは、素早く簡単に微調整が可能。

 ディテールの変更はブレスレットにも見受けられる。“レトロモダン”な近年のモデルと同様に、この新型シーマスター 300のブレスレットもケース側からバックル側に向かって細くなっている形状だ。表面の仕上げはポリッシュとサテンを組み合わせているが、3連になったコマの中央をサテン仕上げにして、両側が艶やかな初代モデルと同じスタイルになっている。これにより見た目の印象は格段に上がった。バックル側がやや細く、ブレスレットの両端に光沢があるこの新作は、より一層エレガントに感じる。これは本作の長所と言えるだろう。

 しかし我々が若干難色を示した点もないわけではない。両側のコマがポリッシュ仕上げであるために、アルミニウム製のベゼルと同様に小傷が目立ちやすいのは否めないのだ。ただし、数週間にわたる今回のテストを終えた後に確認すると、ブレスレットには小傷がほとんど見られず、ベゼルはまったくと言っていいほど傷が付いていなかったことは明記しておきたい。

 バックルの作りの良さについては前作を引き継いでいる。フォールディング式の片側のみに開く設計のおかげで、ふたつのボタンを挟むようにワンプッシュするだけで開くのは確実で使いやすい。大きな利点となっているのは特許を取得したエクステンション機構だ。バックルの内側を押すとブレスレットの長さが3段階で変わり、素早く微調整できるようになっている。ちょっと汗ばむような場合は1.9mm間隔で延長可能だ。以前のように6段階に調整はできないが、それだけに初めて着用する際は的確にフィットさせやすい。これまでと同じように、ブレスレットの取り外しできるコマには通常のものと半分の長さのものがあるので、調整次第で手首にぴったり合う長さにできるだろう。

 コマにはしっかりしたピンが通っていて、両サイドはネジ留めされている。この手間の掛かった構造も特許を取得したものだ。ブレスレットの調節が容易に可能なため、朝起きた時から夕方まで、あるいは夜遅くまで、1日中着けていても非常に快適に過ごせる。

優秀な精度を誇るムーブメント

キャリバー8912

シーマスター 300が搭載するムーブメント、キャリバー8912。設計の良さに加え、オメガ独自の装飾も特徴的だ。

 ケースバックの縁は丸く膨らんでおらず、波のような形状に加工されている。これはシーマスターの大半の現行モデルと同様だ。フラットで大きなサファイアクリスタルの下には、独自の装飾が施され、耐磁パーツを組み込んだ自社製ムーブメント、キャリバー8912が見える。このムーブメントは14年モデルに搭載されていたキャリバー8400の設計を引き継いでいるが、スイス連邦計量・認定局(METAS)の規格に合格した後継機なのだ。

 技術面でのメリットはそのまま生かされている。両方向巻き上げ式ローターを備え、パワーリザーブは平均的な自動巻きムーブメントを上回る約60時間。ヒゲゼンマイには、温度変化や振動などの影響を受けにくいシリコン製のものが使用され、優秀な精度を担う要素のひとつとなっている。テンプ受けは両持ちタイプで、しっかりと固定されている。歩度の調節は、テンワにセットされた小さなネジで行うフリースプラング方式を採用している。そしてなによりも、一般的なスイス式レバー脱進機よりも複雑な形状のアンクルとガンギ車を使用し、振動の安定性に優れたオメガ独自のコーアクシャル脱進機が、より良い精度を実現しているのだ。

 この自社製ムーブメントの大きな特徴は、スイス公式クロノメーター検査協会(C.O.S.C.)の規格だけでなく、数年前よりスイス連邦計量・認定局(METAS)の認可を受けていることだ。C.O.S.C.ではムーブメントだけが検査されるが、METASではケーシングされた状態での精度や防水性、パワーリザーブのほか、1万5000ガウスの耐磁性もチェックされる。

 こうしてすべてのテストに合格した製品が、マスター クロノメーターとして認定されるのだ。基本的にオメガの時計の大半は、ビエンヌに位置するオメガの社屋内にある、METASに認可を受けたテスト室で検査が行われている。別の場所にあるMETASの施設内で検査されてはいないとはいえ、その結果は等格のものとして保証されているのだ。

 さて、クロノスドイツ版の編集部に届いたテストウォッチは、果たしてどのようなデータが出ただろうか? 歩度測定器にセットした後、実際に着用したところ、高精度機のお手本とも言うべき結果が出た。歩度測定器では平均日差がプラス4.2秒、着用した場合はわずかプラス2秒。姿勢差は4秒と、平均日差よりも小さくなっていた。

 このムーブメントの良い点は以前のシーマスター 300と同様だが、ムーブメントと時計全体の優れた性能は、METAS認定モデル全体の平均値を上回っているということになる。オメガがマスター クロノメーターを取得した製品の保証期間を5年としているだけのことはあるわけだ。

必要十分な防水性能

シーマスター 300

裏蓋は高耐磁モデルには珍しいトランスパレント仕様。耐磁パーツの採用によって実現した。

 このようにシーマスター 300は、高精度で実用性が高く、着け心地も快適だ。しかし、思いもよらないところに不満点が見つかった。回転ベゼルはつかみやすく、ちょうどいい力で回せるのだが、目当ての位置でぴたりと止まらないことが多々あるのだ。

 例えば、ズボンのポケットに手を入れたり、リュックサックを背負ったりした時にショルダーハーネスをつかむと、ベゼルが当たって位置がずれてしまうこともあり得るだろう。ただし、着用テストの際に意図せず位置が変わってしまったことはなかった。実際、82万5000円もの金額の腕時計を、ダイビング時にバックアップ装備として着ける人はそうはいないだろうが、合成ゴムで出来た潜水用グローブを着用した状態ではベゼルのセッティングが簡単に決まらず、正確な潜水時間の計測に差し障りが出るような気もする。

 このようなこともあり、おすすめしたいのは普段使いとして利点を存分に満喫することだ。もちろんマリンスポーツにも適してはいるが、ダイビングを行う際に必須ということもないだろう。もしダイビング時に用いるならば、多くのダイバーがそうしているように文字盤で時間を確認するようにしておきたい。というのも、ダイビングコンピューターを使って決まった時間に水面上のボートに戻る時、画面の切り替えを行うのは少し面倒だったりもするのだ。

 ステンレススティール製ブレスレットは陸の上では快適だが、長さを最大まで延長してもダイビングスーツの上からでは無理があるだろう。その場合は、別売りのロングサイズのテキスタイルストラップが便利だ。

 ベゼルには分を示す目盛りが細かく付けられていないが、これもレトロなデザインに仕立てたいためで、必ずしもハイスペックな本格ダイバーズウォッチではなくてもよいというコンセプトの表れだろう。日常的なシーンに合わせやすいというのはかえって魅力的だと感じる。夜、仕事を終えた後にスポーツを楽しむ時や、ちょっとした晴れやかな機会に着けるのもいい。さまざまな長所を持つこのモデルは、あらゆる場面で魅力を発揮するだろう。

新型は旧型に勝るのか?

 新しくなったシーマスター 300は、前世代よりもさらに良くなったと言っていいのだろうか? バーや数字まで暗所で発光するベゼル、ブラウンベージュの蓄光塗料でそろえた統一感のある色使い、エレガントなブレスレット、METASの認証を受けた5年保証の高い品質、そしてステンレススティールでは初めてのブルータイプ。これらの長所に対して短所もないわけではないが、あくまでその数は少ない。ベゼルがさほど傷に強くないことや、ブレスレットの調節可能な幅が狭いこと、秒針の先端が円盤状になったロリポップ針が使われていることは許容範囲内だろう。

 ちなみに秒針に関しては、1957年の初代モデルでは夜光塗料なしで先端がすっきりと尖ったもの、2014年モデルは先端がやじり状のアロー針が使われていた。編集部の好みとしてはアロー針が一番気に入っている。この形はムーンウォッチなどのオメガのアイコンモデルにも使われてきたもので、ロリポップ針に比べ、視認性が低下する水中でも正確な読み取りという本来の目的にかなってもいるからだ。

 そのため、この秒針の形は好みの問題だが、時代の変遷による表れでもあるだろう。新しいシーマスター 300のデザインは、技術、機能、仕上がりと同様に、魅力のひとつに違いない。いずれにせよ、世代交代は成功したと言えるだろう。