2023年のトレンドは自社製クロノグラフ、小さなドレスウォッチ、そして複雑時計の復権だ

2023.12.15

2015年以降、時計業界を牽引してきた“ラグスポ”ブーム。いよいよ定番化したこのジャンルは、さまざまな方向に深化した。その潮流がスポーティーシックとクロノグラフへの流れだ。また、その一方で、小さなドレスウォッチが注目を集めるようになったほか、ハイエンドな複雑時計が再び姿を見せるようになった。

オデュッセウス・クロノグラフ

スポーティーシックとクロノグラフ。2023年を象徴したモデルのひとつが、A.ランゲ&ゾーネの「オデュッセウス・クロノグラフ」だ。一見、既存のモデルに同じだが、まったく新しい自動巻きクロノグラフを搭載する。23年の新作らしく、実用性への配慮はかつてない。リュウズを押し込んだ状態ではプッシュボタンは、クロノグラフのスタートとリセットを司り、1段引くと、曜日と日付の切り替えとなる。かなり複雑なムーブメントだが、使えるサイズに抑えたのが、今の“ラグスポ”風だ。また防水性能も、従来と同じ12気圧防水である。自動巻き(Cal.L156.1 DATOMATIC)。52石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42.5mm、厚さ14.2mm)。12気圧防水。世界限定100本。要価格問い合わせ。(問)A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845
広田雅将(クロノス日本版):取材・文
Text by Masayuki Hirota(Chronos Japan)


2023年のトレンドは自社製クロノグラフ、小さなドレスウォッチ、そして複雑時計の復権だ

 時計業界が空前の活況を呈した2020年代。23年もその勢いは続き、各社はかつてない売り上げをたたき出した。牽引したのは、いわゆる〝ラグジュアリースポーツウォッチ〞のブームだった。15年以降、ブレスレット付きのスポーティーな腕時計は、新しい層に加えて、今までの腕時計には飽き足らない愛好家たちにも強くアピールしたのである。今や、スイスが輸出する機械式時計の大半は、ステンレススティールケースにブレスレットを合わせた、スポーティーなモデルだ。

2023年の“ラグスポ”はスポーティーシックに

 もっとも、23年で目立ったのは実用性を加味した、スポーティーシックという打ち出しだった。ジェンタデザインに回帰したIWC「インヂュニア」は、薄いケースと短い全長で、使いやすいモデルとなった。また、オーデマピゲの「ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ」43mmもインターチェンジャブルストラップと角を落とした造形で、普段使いに向くよう仕立て直された。実用的なスポーティーシックを打ち出したこれらの新作が示したのは、ラグジュアリーというジャンルの成熟あるいは飽和だ。

 前年同様、“色”も23年のトレンドだった。技術の進歩により、メッキやラッカー仕上げに加えてPVDやCVDといった新手法が当たり前となった。その結果、腕時計の文字盤はかつてない色を持てるようになったのである。ヴァシュロン・コンスタンタンやカルティエといった、文字盤に対して保守的なメーカーでさえも、カラフルなダイアルを売りにするようになったのだから、大きな変化だ。

 しかし、23年には新しい傾向も見受けられた。そのひとつがクロノグラフだ。一時期に比べて自社製ムーブメントの開発競争は落ち着いたものの、自社製クロノグラフムーブメントへの需要は相変わらず高い。後押ししたのはラグジュアリースポーツウォッチのブームである。その結果、23年は各社が凝ったクロノグラフモデルをリリースするようになった。好例がA.ランゲ&ゾーネの「オデュッセウス・クロノグラフ」だろう。これは垂直クラッチに自動巻きというモダンな構成で、普段使いを強く意識したモデルだ。また、グランドセイコーのテンタグラフも、同ブランド初の機械式クロノグラフとなった。

次の時代のトレンドか? 薄いドレスウォッチの復権

L.U.C 1860

密かに注目を集めつつある、小ぶりなドレスウォッチ。2023年の注目株が、直径36.5mmの「L.U.C 1860」だ。見た目は1990年代風だが、最新作らしく、エッジの立った良質なケースが与えられた。また、あえてケース素材にステンレススティールを使うことで、実用性が増している。自動巻き(Cal.L.U.C 96.40-L)。29石。パワーリザーブ約65時間。2万8800振動/時。ルーセントスティール™ケース(直径36.5mm、厚さ8.2mm)。30m防水。ブティック限定。346万5000円(税込み)。(問)ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922

 一方では、まったく違うトレンドも芽生えつつある。そのひとつが、小さなドレスウォッチだ。23年は少なくない時計メーカーやブランドが、あえて直径36mmや37mmといった、小ぶりなドレスウォッチを打ち出した。

 ショパール「L.U.C 1860」は、1990年代の傑作をほぼ忠実に復刻したモデルである。ケースの直径はわずか36.5mm。現在において明らかに小さなサイズは、愛好家たちに熱狂的に歓迎された。

 変化の一因は、ラグジュアリースポーツウォッチがポピュラーになり過ぎた点にある。となると、これに飽き足らない人たちは、今やニッチに転じたシンプルなドレスウォッチに目を向けるだろう。

 それを可能にしたのが、やはり加工技術の進化である。かつてはねじ込み式の裏蓋でなければ、腕時計のケースに十分な防水性を持たせられなかった。しかし、ケースの加工技術が飛躍的に進歩することで、今や薄くて小さなケースと高い防水性の両立は可能になったのである。

 もうひとつの潮流が、複雑時計の復権だ。ここ数年、各メーカーはベーシックなモデルの色違いを多くリリースしてきた。しかし“時計バブル”が起きると、高価格帯の売り上げが、各社を牽引するようになった。価格が上がり過ぎたという批判はあるが、このトレンドは当面続くに違いない。そして、2024年以降は、カラフルなジュエリーをあしらった複雑時計が、23年以上に目立つことになるだろう。

広田雅将

広田雅将/時計専門誌『クロノス日本版』およびwebChronos編集長
サラリーマンを経て、2004年より時計ジャーナリストとして活動を開始。国内外の時計専門誌やライフスタイル誌などに寄稿する一方、時計ブランドや販売店でのセミナーやイベントの講師も務めてきた。コロナ禍の影響で海外取材ができない状況においても、オンラインを活用することで、スイスやドイツ、イタリアなど、ヨーロッパを拠点とするブランドのCEOや研究開発・企画担当者など、時計業界関係者に取材を継続。2016年より現職。


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