今やミドルレンジの雄となったモーリス・ラクロア。良質な外装と、明快なデザイン、そして戦略的な価格を考えれば、世界的な人気は当然だろう。加えて近年は、素材と色でその個性をより強調するようになった。最新版の「ポントス S ダイバー」と「アイコン」は、スポーティーだが〝アーバンジャングル〟にもフィットする意欲作だ。
ケースの小型化により、普段使いに向くように改められた「ポントス S ダイバー」。その中でも、ダイビングを意識したのが本作だ。傷の付きにくいブラックDLCコーティングのケースには、視認性の高いイエローの差し色があしらわれる。自動巻き(Cal.ML115、セリタSW200ベース)。26石。2万8800振動/時。パワーリザー
ブ約38時間。SS+DLC( 直径42mm、厚さ13mm)。30気圧防水。32万5600円(税込み)。
広田雅将(クロノス日本版):文 Text by Masayuki Hirota(Chronos Japan)
Edited by Yukiya Suzuk(i Chronos Japan)
色と素材で広がるマルチパーパスのアーバンウォッチ
ミドルレンジのメーカーとしては例外的に、いち早く外装の重要性に気づいたのがモーリス・ラクロアである。1990年の「カリプソ」を皮切りに、同社は外装でもユニークな試みを続けてきた。その帰結が、新しい「ポントス S ダイバー」と「アイコン」の新作だ。今までにない素材と色は、そのデザインをいっそう強調する。
ヒット作に加わった素材違い。2023年の限定版ではブルーだった文字盤は、レギュラーモデルに同じ、ブラックに改められた。今のモーリス・ラクロアらしく、時計全体の色調は巧みに統一されている。自動巻き(Cal.ML115、セリタSW200ベース)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。ブロンズ(直径42mm、厚さ13mm)。世界限定888本。30気圧防水。38万6100円(税込み)。
2016年の「アイコン」で世界的な成功を得たモーリス・ラクロア。続いて同社が目を向けたのは、13年に発表されたダイバーズウォッチの「ポントス S ダイバー」であった。
このモデルも、他社にはないモダンさを強調したモデルだった。回転ベゼルはアウターからインナー式に改められ、それによりベゼルはダイバーズウォッチとは思えないほど細く絞られた。また、針やインデックスも、ビジネスウォッチを思わせるストレートなバーである。この魅力的なモデルはモーリス・ラクロアの新しい柱となる予定だったが、新コレクションのアイコンに注力するためディスコンになった。
しかし、SNS上での人気の高まりを受けて、同社は23年に本作をリバイバルさせた。とはいえ、キャラクターは大きく異なる。13年モデルはプロユースを打ち出していたが、最新版では、普段使いできるアーバンウォッチであることが強調された。そのため防水性能は600mから300mとなり、ケースの直径は、1mm小さい42mmに、厚さも15mmから13mmへと薄くなった。また、裏蓋をねじ込み式からネジ留めに改めることで、腕との接触面積も広くなり、着け心地は大きく改善された。
アーバンを強調したのが、PVD仕上げのケースを持つ2モデルだ。
上は、時計業界では初となるメタリックグレーPVDのモデル。併せて文字盤と針も、ブラックのメッキ仕上げに改められた。SS+PVD(直径42mm、厚さ11mm)。
下はブルーPVDを採用したもの。ドレッシーさを強調するためか、小ぶりな39mm 径である。SS+PVD(直径39mm、厚さ11mm)。いずれも自動巻き(Cal.ML115、セリタ
SW200ベース)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。20気圧防水。世界限定各888本。各35万6400円(税込み)。
スポーティーだがトゥーマッチではない、という方向性に舵を切り直したポントス S ダイバーが、たちまち人気を集めたのは当然だろう。そこで24年には、ブラックDLCコーティングを施したスペシャルモデルと、ブロンズケースの限定版が追加された。もっとも、単なる色違いではないのはモーリス・ラクロアだ。前者はダイビングにも向くよう、傷が付きにくいDLC仕上げが採用されたほか、色も最も視認性に優れる黄色と黒の組み合わせが選ばれた。また、ストラップもタフに使えるラバー製である。一方後者は、経年変化が楽しめるよう、あえてブロンズ素材が採用された。しかし、アルミニウムを加えることで極端な経年変化を抑えたのは、普段使いを意識するモーリス・ラクロアらしい。またストラップも、シティーユースに向くヌバック製だ。
大ヒット作のアイコンも、素材と色でさらにバリエーションを広げた。「アイコン PVD」は、外装にミッドナイトブルーとガンメタルグレーのPVDをあしらった限定版。部分的にブルーPVDをあしらったモデルは他社にもあるが、アイコンの価格帯で全面PVDを採用したのは珍しい。そしてグレーPVDは、単なるグレーではなく、メタリックなニュアンスを持つものだ。いずれも外装の仕上げに注力してきたモーリス・ラクロアらしい選択と言えるだろう。
ミドルレンジの価格帯で、いち早くブロンズケースを採用したモーリス・ラクロア。その決定版が本作だ。全体の色調をブラウンに統一し、併せてゴールドメッキの針やインデックスを採用する。自動巻き(Cal.ML115、セリタSW200ベース)。26石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約38時間。ブロンズ(直径42mm、厚さ11
mm)。20気圧防水。世界限定888本。37万700円(税込み)。
そしてもうひとつの限定版が、新しいブロンズモデルだ。ちなみにモーリス・ラクロアは、今までにふたつ、ブロンズケースのアイコンをリリースした。17年の第1作は、クォーツムーブメントを搭載したもの。18年の第2作は、現行モデルと同じケースに改められたが、インデックスはアラビア数字とバーの混在だった。対して24年の新作は、レギュラーモデルと同じデザインになったほか、ラグジュアリーさが強調されている。文字盤に採用されたのはグラデーションのあるスモークチョコレートダイアル。そしてインデックスと針、「m」のロゴはゴールドメッキに改められた。いずれも色と素材を変えただけだが、まったく別のキャラクターに見えるのは、1990年代以降、外装にノウハウを蓄積してきた、モーリス・ラクロアならではと言えるだろう。
ひと目で分かる明快なデザインに加えて、新しい素材と色で、個性をいっそう強調するようになったポントスとアイコン。しかも、価格は相変わらず戦略的だ。普段使いのできる、しかし人とは被らない腕時計を求める人にとって、今のモーリス・ラクロアのアーバンウォッチこそ、旬な選択に違いない。
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