ユリスナルダン、実用スペックのマリンクロノメーター
かつて船舶に搭載するマリンクロノメーターを手掛け、海と深い関係を持つユリス・ナルダンは、“自由な精神”をテーマに掲げるウォッチメーカーでもある。
シリコンをはじめとする革新的な素材をいち早く実用化するなど、新技術の開発を積極的に行うマニュファクチュールだ。ここで紹介する2本のダイバーズウォッチは、そんなブランドの精神を見事に体現するモデルである。共通するのは、300 mの防水性能を備え、自社製ムーブメントを搭載すること。文字盤の12時位置にはパワーリザーブ表示を、6時位置にはスモールセコンドと日付表示を備えた独自のスタイルを確立している。
またケースにはチタンが採用され、実用性に富んだスペックであることも共通だ。
土井康希(クロノス日本版):文 Text by Kouki Doi(Chronos Japan)
2021年7月、夏へ向けてダイバー コレクションに追加された3本のゴールドモデルのひとつで、ベゼルとリュウズに18Kローズゴールドが採用されている。それ以外のケース本体とケースバック、バックルにはチタンが用いられ、深海を思わせるダークブルーのPVDコーティングが表面を覆う。ゴールドならではの重厚感と、チタンが持つ軽快さを併せ持つ1本だ。ベゼルに合わせて針やインデックス、9時側に配された錨のブランドロゴもローズゴールドカラーであり、時計全体とのコントラストを際立たせている。
自動巻き(Cal.UN-118)。50石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約60時間。Ti×18KRG(直径44mm、厚さ14.81mm)。300m防水。165万円。
一部の限定モデルを除いて、「ダイバークロノメーター」のケースバックはトランスパレント仕様だ。搭載するのは2本共通で、260ものパーツから成るキャリバーUN-118。他のコレクションにも採用される、信頼性の高い自社製ムーブメントだ。機械式時計の心臓部であるアンクルとガンギ車には、シリコンを人工ダイヤモンドでコーティングした独自素材「ダイヤモンシル」が使われている点が特徴で、ヒゲゼンマイ自体はシリコン製。注油が不要で摩擦や温度変化に強く、磁力の影響を受けないため、時計の精度に大きなメリットをもたらす。また両持ちのテンプ受けから、堅牢さも考慮されていることが分かるだろう。
ケースやベゼルをはじめ、フォールディングバックルの付いたブレスレットなど、多くの外装パーツにチタンを採用するモデル。広範囲に施されたサテン仕上げにより光沢感が抑えられ、チタンならではの軽快な着用感が特徴だ。海を想起させるダークブルーの文字盤は表面が粒立ったマットな質感で、過度な光の反射を抑え視認性を高める役割を持つ。またベゼルがわずかにすり鉢状になっているが、これは表面に傷がつきにくくするため。ダイバーズを得意とするユリス・ナルダンならではの細やかな気遣いが随所に見られる。
自動巻き(Cal.UN-118)。50石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約60時間。Ti(直径44mm、厚さ14.86mm)。300m防水。121万円。。
Contact info: ソーウインド ジャパン Tel.03-5211-1791
ハイゼック 人間工学に基づく軽量〝ラグスポ〟ウォッチ
ハイゼックは、奇才と称されるドイツ出身のウォッチデザイナー、ヨルグ・イゼックによって1997年に設立されたブランドだ。かつてヴァシュロン・コンスタンタンの「222」やブレゲの初代「マリーン」などを手掛けたイゼックは、人間工学を取り入れたエルゴノミックデザインをコレクション全体を通したひとつの軸としており、それは、ここで紹介する2本の「アビス」も例外ではない。
イゼックは2006年にブランドを後進に譲ったが、最後に彼自身で手掛けたのがアビスコレクションである。直径40mmを超える大型のケースを持ちながらも、軽量なチタン素材の採用とケース一体型の可動式ラグにより、快適な装着感を実現している。
土井康希(クロノス日本版):文 Text by Kouki Do(i Chronos Japan)
アビスコレクションを代表する「アビス 44MM クロノグラフ」は、ヨルグ・イゼックが生み出したデザインを今に残すモデルだ。直径44mm、厚さ14mmの大型ケースはチタン製。独創性あふれる外装だが、可動式ラグによって時計の重心を下げ、チタンの採用によりケース自体を軽くすることで、アビスらしい優れた装着感を得た。ハイゼックのコレクションで唯一パープルの文字盤と、同じくパープルとブラックとのツートンカラーの専用レザーストラップを装備しており、ひときわ存在感を放つモデルに仕上がっている。
自動巻き(Cal.ETA 7750)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。Ti(直径44mm、厚さ14mm)。30m防水。110万円。
ヨルグ・イゼックが生み出した、アビスらしいマッシブな意匠を継ぎながら、新たに“薄さ”という要素を加えたのが、2021年に発表された3針モデルの「アビス H」だ。マイクロローター式の自動巻き機構を採用する自社製ムーブメントを載せることで、グレード5チタン製のケースを直径41mmに、厚さを11mmまで抑えた。太いベゼルや重厚なリュウズガード、ケース一体型の可動式ラグなどは本作でも健在で、着用感は快適そのもの。まさしく、ハイゼックが提案する“ラグジュアリースポーツウォッチ”である。
自動巻き(Cal.HW2000)。41石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約48時間。Ti(直径41mm、厚さ11mm)。30m防水。277万2000円。
ハイゼックは独自性あふれるデザインを得意とするだけでなく、ムーブメントの開発力も持ち合わせている。自社で手掛けるムーブメントは数多く、ジャンピングアワーやフライングトゥールビヨン、それらを組み合わせたコンプリケーションなどを自社工房で製作している。写真は「アビス H 」が搭載するキャリバーHW2000。ケースを薄型化するため、自動巻き機構にマイクロローターを採用している。サークル状の筋目をローターと受けの表面全体に入れ、フラットな印象だ。注目したいのはネジ類。受けなどを留めるネジには独自の形状のものが使用されており、専用ドライバーでのみメンテナンスが可能である。
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『クロノス日本版』編集長がアドバイス!
チタンウォッチ選びのポイント
かつては純然たる機能素材であったチタン。しかし、アルミニウムなどを混ぜた通称64チタン(グレード5チタン)の普及により、高級時計にも採用例が増えてきた。リシャール・ミルの凝った外装と軽さは、加工しやすいグレード5チタンがあればこそ。また、セイコーが採用するブリリアントハードチタンは、さらに優れた特性を持っている。軽さ、錆にくさといった特性に加えて、今や、ステンレススティールと遜色ない質感を持つチタン素材。しかし、軟らかいため、傷はつきやすい。もし気になる人は、コーティングされたチタンを選ぶこと。