2018年からフレデリック・コンスタントを牽引するのが、マネージング・ディレクターのニールズ・エガーディンだ。彼は工場を拡大するほか、自社製ムーブメントに注力することで、同社のブランド力を高めつつある。
広田雅将(クロノス日本版):取材・文 Text by Masayuki Hirota(Chronos Japan)
新しい「ハイライフ」は私たちのビジネスを牽引するだろう
フレデリック・コンスタントのマネージング・ディレクター。1978年、オランダ生まれ。アイントホーフェン大学を卒業後、時計業界に参入。2012年にフレデリック・コンスタントの創設者であるピーター・C・スタースと会い、同社の営業副部長となる。14年には販売と営業部長、18年より現職。19年にはプラン・レ・ワットの自社工場を拡大したほか、20年には大ヒット作の「ハイライフ」をリリースした。今後は同じシチズングループに属するラ・ジュー・ペレとのコラボレーションも増やすという。
「私たちの強みはムーブメントを内製できることですね。2021年はワールドタイマーを3500本、永久カレンダーを1200本製作したように、小ロットでも製造できます。このようなことができるブランドは他にないでしょう。私たちが複雑時計の分野でも、手の届きやすい価格を維持できる理由です」
加えて、フレデリック・コンスタントはスポーティーウォッチの「ハイライフ」で、新しい顧客層を開拓しつつある。彼は本作こそがキープロダクトだと言う。
「スポーツウォッチのトレンドは、2015年にはすでに始まっていました。16年にスイスからの輸出数を分析すると、3000ユーロ以上のラグジュアリーウォッチの約80%が、ステンレススティール製でブレスレット付きだったのです。つまり一体型ブレスレットを持つスポーツウォッチの牽引力が非常に高いことが分かったのです」
そこで登場したのが、一体型ブレスレットを持つスポーティーウォッチのハイライフだ。エガーディンは、今後本作がビジネスの40〜50%を占めるだろう、と語る。
「私たちはクラシカルな時計を作っており、そういう時計を好むお客様に支えられています。多くの方がフレデリック・コンスタントを複数本お持ちですが、今後そういう方もスポーツウォッチに向くかもしれない。しかし、それらの多くはアクセスできる価格帯にはありませんね。このハイライフがあれば、今までのお客様にも支持され、さらに新しい顧客を獲得できるでしょう」
「高品質」「スイスメイド」「手の届く価格」に、フレデリック・コンスタントのデザインコードを組み合わせたスポーティーシックなモデル。新しいクロノメーターモデルは、ケースはわずかに薄く、小さくなった。スイス公式クロノメーターC.O.S.C.認定証付き。自動巻き(Cal.FC-303/セリタSW200ベース)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SS(直径39mm、厚さ10.34mm)。5気圧防水。インターチェンジャブル仕様ラバーストラップ付属。27万2800円(税込み)。
しかし、フレデリック・コンスタントに、一体型ブレスレットを作るノウハウはなかったはずだ。
「私がデザイン画からサンプルまで一貫して手掛けたのは、このハイライフが初めてでした。簡単ではありませんでしたが、6つのサンプルを製作して完成に至りました。ケースサイドを見てください。他社のラグジュアリースポーツウォッチは、直線ベースのデザインを持っていますね。しかし私たちはそういう時計を作りたくなかったんです。フレデリック・コンスタントのクラシックな要素を残しつつ、スポーティーシックへの橋渡しをしたかった。時間がかかりますが、もちろん自社でデザインしています」
フレデリック・コンスタントが成功を収めた理由はふたつある。手の届く価格、そして創業者であるピーター・C・スタースによるデザインだ。しかし、彼はCEOを離れてしまった。
「ピーターは、デザインに非常に厳しい目を持っていました。そして彼は、私のメンターですね。私たちは彼の作ったDNAのコードは守ろうと思います。というのも、私たちは比較的若いブランドなので、あまり早く変えてしまうと、既存の顧客を失ってしまうだけでなく、新しい顧客も開拓できないからですね。そして時折、ピーターと連絡を取り合い、企画中のコレクションを見せているんです。チェックしてもらうのではなく、議論するためにね」
光栄なことがありました、とエガーディンは語る。経営者と言うよりも、時計好きの顔だ。
「すごくうれしいことがあったんです。ピーターが来年の新製品に関して電話をかけてきたんですよ。『新製品を買わせてほしい』とのことでした」
フレデリック・コンスタントに大きな成功をもたらしたピーター・C・スタース。その後継者であるニールズ・エガーディンも、良い意味でスタースの路線を継続しようとしている。彼のスタンスを見る限り、今後もフレデリック・コンスタントは、さらに成長するに違いない。
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