2023年、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク オフショア」は誕生30周年を迎えた。いわゆる“ラグジュアリースポーツウォッチ”のジャンルを打ち立てた名作「ロイヤル オーク」を超えるそれは、まさにブランドの目指す“ブレイク・ザ・ルール”の哲学そのものである。
誕生30周年を祝し、ロイヤル オーク オフショアに初のフルブラックセラミックモデルが登場した。今作ではベゼルやケースに加え、ブレスレットにもセラミックスを採用。これは超硬素材の専門メーカー、バンゲーター社での実績を踏まえた上での新たな挑戦だ。本来であれば横配列の自社製一体型クロノグラフCal.4401を縦配列に変え、初代のオリジナルスタイルを再現した。自動巻き(Cal.4404)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。ブラックセラミックス(直径42mm、厚さ15.3mm)。100m防水。1045万円。
菊池陽之介:スタイリング、竹井 温(&’s management):ヘア&メイク、
Soche(OWN):モデル、安部 毅:編集
Photographs by Masayuki Shimizu(mili), Takashi Hakoshima(P.18), Text by Mitsuru Shibata,
Styling by Yonosuke Kikuchi, Hair & Make by Tazuru Takei(&’s management),
Modeled by Soche(OWN), Edited by Takeshi Abe
AUDEMARS PIGUET ROYAL OAK OFFSHORE
1993年、バーゼル・フェア(後にバーゼルワールドに改称)のオーデマ ピゲのブースは、異様な興奮と熱気に包まれていた。ラグジュアリースポーツウォッチの金字塔となったロイヤル オークの誕生20周年を記念し、新作が発表されるからだ。高まる期待の中、ついにアンベールされた「ロイヤル オーク オフショア」に捧げられたのは〝ビースト〞の名。
だが、それは決して蔑称ではなかった。なぜなら、かつてロイヤル オークも〝ジャンボ〞と名付けられ、むしろその反骨精神の血統を受け継ぐものとして喝采が送られたのである。
時計の針を少し戻そう。開発計画がスタートしたのは1989年、ロイヤル オークも誕生から20年近くが経ち、シリーズを盤石にするため、若い世代に向けたよりスポーティーなラインナップが待ち望まれていた。躍動感あるクロノグラフが挙がったのもそのためだ。
オフショアというネーミングもそのひとつ。当時、若い世代でマリーンスポーツやモーターボートが流行し、その人気を象徴したボートレース「オフショア」の名を1989年に商標登録。先行して企画が進められたのである。同時にそれはロイヤル オークの命名時にサファリやエクスカリバー、サーフライダーといった候補が挙がり、スポーツや自然への挑戦を込めたことを思い起こさせる。いわばオフショアはその名においても、原点回帰であり、志を継承するのである。
デザインを担当した弱冠22歳のエマニュエル・ギュエは、これが初作品となった。ロイヤル オークの生みの親である巨匠ジェラルド・ジェンタの名作を前に、ただ模倣するのではなく、意匠に込められた意図を理解し、リデザインする。それはサンプリングしたリズムトラックを用い、新しい楽曲を創作するのにも似て、ウォッチデザインの革命でもあった。
しかし、容易には受け入れられず、当初生産された100本は、ケースバックにはロイヤル オークとシリアルナンバーの刻印のみでオフショアの名が刻まれることはなかったのだ。それでも防水性やブレスレットの仕上げなど技術的にも多くの難関を乗り越え、ファーストモデルが正式発表されたのは、本来の20周年の翌年だった。そしてこのとき、会場ブースに激昂したジェラルド・ジェンタ本人が怒鳴り込んだという逸話からも当時の賛否両論がうかがえる。これに対し、ブランドもターゲット層である若い世代に向けて、積極的なプロモーション活動を展開した。
フランスの高級リゾートで知られるサントロペでミスコンの男性版であるミスターコンテストを開催し、優勝者に時計を授与することで、エクストリームスポーツを好む若者に認知と支持を広げていった。そして、熱い視線を注いだのは、ハリウッドスターも例外ではなかった。アーノルド・シュワルツェネッガーだ。
熱心なウォッチコレクターでもあったシュワルツェネッガーは、以前からオフショアを愛用し、その情熱はオリジナルウォッチに結実。1999年に発表されたコレクション初の限定モデル「ロイヤル オーク オフショア エンド オブ デイズ」を主演作で着用したのである。
さらに、その売り上げから100万ドルが、恵まれない子供たちへのスポーツと教育を促進するシュワルツェネッガーの財団に寄付されたことも画期的と言えるだろう。1本の腕時計が社会貢献につながったことで、単なる広告プロモーションの枠を超えて両者の絆はさらに深まり、以降も長く続いた。いまでは時計業界における社会貢献や環境保全のコラボレーションも珍しくなくなったが、その先鞭をつけたパイオニアもやはりロイヤル オーク オフショアだったのだ。
「ロイヤル オーク オフショア」のコラボレーションはさらに広がり、誕生20周年を飾ったのはバスケットボール界のレジェンド、レブロン・ジェームスだった。発表された限定モデルは大きな話題を呼び、以降シャキール・オニールなど多くの選手が加わり、スポーツの世界にリーチ。さらにレースやエンターテインメント、アートなど幅広いジャンルで活躍するセレブリティとのパートナーシップを通じ、ファッション&カルチャーでもそのイメージを確立したのだ。
この間、基本スタイルを崩すことなく、精度や機能、品質を追求し、魅力を深化させた。その根幹となるムーブメントは、2006年にキャリバー3126/3840を搭載し、直近では21年にキャリバー4400系へと刷新されたことも記憶に新しい。これは垂直クラッチとコラムホイール搭載による一体型フライバッククロノグラフに、ゼロリセット機能も備えた自社製の最新ムーブメントで、19年に登場したCODE11.59バイ オーデマ ピゲが初搭載し、信頼性も実証する。新世代をアピールする横配列のインダイアルに対し、あえて縦配列のモデルを設え、オリジナルに敬意を払う。
今年30周年を迎えるロイヤル オークオフショアは230以上のバリエーションが誕生し、常にその時代の息吹とともに磨きをかけてきた。ファッションとの親和性も高く、自分らしい1本が選べることに加え、最新のインターチェンジャブルストラップもスタイリッシュな魅力を添える。シーンや装いに応じてメタルブレスレットからレザーやラバーのストラップへ自在に換装でき、オンとオフがシームレスに多様化する現代のライフスタイルにも対応するのだ。
オーデマ ピゲには〝ブレイク・ザ・ルール〞という哲学がある。既成概念にとらわれず、常に革命を起こす。ロイヤル オーク オフショアこそその象徴なのだ。
ロイヤル オーク オフショアの奥深き世界観を体験する
エクストリームスポーツウォッチとして誕生したロイヤル オーク オフショアは、今年30周年を迎えた。これを記念し、現在、オーデマ ピゲ ブティック 銀座の地下1階では「ロイヤル オーク オフショア30年の歩み」展が開催されている。発売当初、ロイヤル オークがエレガントな薄型だったのに対し、オーバーサイズのマッシブなスタイルをまとったことから、ロイヤル オーク オフショアには〝ビースト〞のニックネームが付いたほど。しかしその対極のような存在をあえて同じデザインコードに載せたことで、シリーズ全体の幅が広がり、ロイヤル オークの持つ世界観と魅力はより豊かになったのである。
そうした歴史を当時のアーカイブ資料とともに、顧客が個人所有する貴重なロイヤル オーク オフショアと、それを入手したストーリーを通して振り返るのが本展示だ。フロアには1993年のファーストモデルをはじめ、歴代の限定モデルなど約20点が展示されている。コラボレーションや多彩なバリエーションを誇るコレクションだけに稀少な実機を直に見ることのできる数少ない機会だ。それに加え、それぞれの所有者がどのような思いでその時計を手に入れ、今も大切に使い続けているかが伝わってくる。
「いつかは」の憧れと夢をかなえた喜びや、日々着けることで実感する豊かさや満足感、さらに誕生日のプレゼントとして伴侶から贈られ、ふたりの愛情の証しになっているなど、それぞれの人生の時がそこには刻まれている。使い込まれた風合いは何にも増して美しく、そんな時計こそ時を超越した価値ある名作であり、ロイヤル オーク オフショアがそれにふさわしいことが実感できることだろう。
古い歴史を持つ時計において、30年という歩みは決して長いとは言えない。だがロイヤル オーク オフショアの1本1本が刻み続ける時はより深く美しいのだ。
「ロイヤル オーク オフショア 30年の歩み」
住所/〒104-0061 東京都中央区銀座6-5-13
オーデマ ピゲ ブティック 銀座B1F
電話番号/03-6830-0788
期間/~2023年12月末まで
開場時間/12:00~19:00(18:00最終受付)
入場料/無料(※事前予約優先)
【予約はこちらより】
https://japan.audemarspiguet.com/event05/
ここでしか得られない学びを通じて深める
オーデマ ピゲと機械式時計の奥深き世界
既成概念にとらわれず、常に革命を起こす。そんなオーデマ ピゲの哲学を体現する新たな試みが7月15日(土)より始まる。東京・表参道にオープンする世界初のエデュテインメントスペース「AP LAB Tokyo」は“時計師への挑戦”というテーマを掲げ、楽しい学びを通じてオーデマ ピゲと機械式時計への興味や関心を深めてもらう場となっている。メインのゲームフロアは「時計」「素材」「機構」「音」「天体」という5つのトピックからなるゲームを通じて、楽しみながら学ぶことができる。ゲームをクリアした参加者のみが次のステージに進めるとのことなので、ぜひ挑戦してみては?
AP LAB Tokyo
住所/〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-10-9
電話番号/03-6633-7000
営業時間/11:00~19:00
※火曜定休
入場料/無料(※予約制)
【予約はこちらより】
https://booking.audemarspiguet.com/registration/
https://www.audemarspiguet.com