編集長 広田雅将のバーゼルワールド2019で見つけた小ネタ

2019.05.11
チュチマ パトリア

驚くべきチュチマの3針モデル、「パトリア」

 バーゼルワールドの期間中、ギズベルト・ブルーナー先生にお会いした。期間中、御大はいつも忙しいのだが、顔を合わせる度、お勧めの時計を教えてくれる。

ブルーナー先生 「広田、おまえはチュチマのブースに行ったか?」

広田 「いえ、まだです」

ブルーナー先生 「ならば行った方がいい」

 先生は昨年も猛烈なチュチマ推しで、果たして驚くべき「テンポストップ」に出会った。正直、チュチマがあんなに素晴らしいクロノグラフを作るとは誰が想像しただろう? 昨年クロノス日本版でしつこく書いたからもう取り上げないが、テンポストップが載せるムーブメントは、かの傑作「UROFA59」の、事実上の再生産版なのである。目の肥えた日本のファンが買わなかったのは解せない。

 先生曰く、今年の推しはテンポストップではなくSS3針の「パトリア」らしい。しかしだ、ドイツにはラング&ハイネだの、D.ドーンブリュート&ゾーンだの、モリッツ・グロスマンだの、優れた3針モデルを作るメーカーは少なくない。確かにテンポストップは素晴らしかったし、だから本誌でも大々的に取り上げたが、新しいSSのパトリアは、先生が絶賛するほどなのか。

「パトリア」が搭載するムーブメントは、既存の18Kゴールドモデルと同じだった。本誌では取り上げなかったが、内容自体は文句の付けようがない。基本コンポーネンツはテンポストップと共有しているが、標準的なスモセコ輪列に改められたほか、かっちりした丸穴車と角穴車が付いている。角穴車に噛み合ったコハゼも高級機然としており、加えて凝った巻き上げヒゲとフリースプラングが載っている。ケースをSSに替えたからといって、仕上げを下げなかったのはエライ。

 そしてその価格を聞いて、ブルーナー先生がしつこく勧めた理由がわかった。搭載するキャリバー617は、18Kゴールドモデルと仕上げも機構もまったく同じ。筆者は150万円ぐらいだろうと想像していたが、販売価格は69万8000円とのこと。これは革命どころの騒ぎではない。それぐらいに、チュチマが作った3針ムーブメントはコスパが高かったのである。

 昨年、テンポストップが日本で売れなかったことを、いまだ残念に思っている。しかし、今年はいっそう魅力的な3針のパトリアがある。願わくば、このモデルが、広く日本の愛好家に受け入れられますように。(広田雅将)

パトリア ムーブメント

Photograph by Eiichi Okuyama
左は、SSモデルの「パトリア」が搭載するCal.617。価格を大きく下げたにもかかわらず、ムーブメントの機構と仕上げは、既存の18Kゴールドモデルにまったく同じだ。手巻き。ムーブメント径31mm、厚さ4.78mm。2万1600振動/時。20石。パワーリザーブ約65時間。フリースプラングテンプ及び巻き上げヒゲを採用。右は、昨年発表された「テンポストップ」が搭載するCal.T659。