1977年に100本のみ製造されたRef.44018をモチーフに、現代的なアレンジが加えられた「ヒストリーク・222」。直径37mmの“ジャンボ”をベースに、トランスパレントバックの3ピースケースを採用しながら、ケース厚の増加はわずか0.45mmに留まる。剛性感を高めたブレスレットがもたらしたものは、ゴールドケースの重量感をスッと消し去ってくれるような、最適化されたウェイトバランスだ。
外装全体の仕上げから漂ってくる、懐かしさすら感じさせる雰囲気。クリアランスを詰め切らない時分針の建て付けや、やや粗めのサテナージュからは、少なくとも「1990年代頃までに発表された新作」といったイメージが漂う。こうした仕上げのタッチから感じられる“旧さ”は、敢えて狙って生み出されたものだ。全体的にソフィスティケートされた現行オーヴァーシーズと比べてみれば、一層明確に理解できるだろう。
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
鈴木裕之、クロノス日本版編集部:取材・文
Text by Hiroyuki Suzuki, Chronos Japan Edition
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]
「ヒストリーク・222」インプレッション項目
1977年に発表された「222」を現代的にリメイク。トランスパレント化された3ピースケースを持つが、オリジナルに忠実なプロポーションをキープしている。自動巻き(Cal.2455/2)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KYG(直径37mm、厚さ7.95mm)。976万8000円(ブティック限定モデル)。
1、ケース
リュウズは引きやすく、回しやすいか? : 〇
リュウズを引き出した際、左右のガタはないか? : ◎
2、ブレスレット&ストラップ
バックルは外しやすいか? : ◎
ブレスレットの遊びやストラップの曲がり・穴のピッチは適切か? : 〇
3、文字盤、針、風防
強い光源にさらされた際、インデックスと針が文字盤に埋没しないか? : 〇
文字盤と針のクリアランスは過大ではないか? : △
4、ムーブメント
針合わせは滑らかか? : △
ローターの回転音は耳障りではないか? : 〇
歩度測定器による精度テスト結果(静態精度)
T0時 | T0時 | T0時 | T24時 | T24時 | T24時 | |
歩度 | 振り角 | 片振り角 | 歩度 | 振り角 | 片振り角 | |
文字盤上 | +1秒/日 | 307° | 0.2ms | +5秒/日< | 249° | 0.1ms |
12時上 | +7秒/日 | 264° | 0.3ms | +9秒/日< | 224° | 0.3ms |
3時上 | -2秒/日 | 259° | 0.3ms | +2秒/日< | 231° | 0.3ms |
6時上 | +7秒/日 | 261° | 0.1ms | +8秒/日< | 236° | 0.0ms |
9時上 | -1秒/日 | 259° | 0.3ms | +10秒/日< | 225° | 0.1ms |
文字盤下 | +4秒/日 | 304° | 0.1ms | +8秒/日< | 252° | 0.0ms |
平均 | +2.6秒/日 | 275.6° | 0.2ms | +7秒/日< | 236.1° | 0.1ms |
ヴィンテージルックの想像を超える最適化されたウェイトバランス
やっぱりズシリとくるな。2022年に発表されたばかりのヴァシュロン・コンスタンタン「ヒストリーク・222」を初めて着用した、最初の実感はそれだった。資料によると出荷状態での重量は205g。筆者の腕周りに合わせて4コマほどブレスレットを詰めた状態でも、実測で185gあった。久しぶりに腕にするゴールドブレスレットウォッチ。普段使いにしている41㎜径の手巻き時計(SSケース+アリゲーターストラップ)を測ると75gだったので、その差は歴然だ。「ヒストリーク・222」のルーツは、創業222周年を迎えた1977年に、まだデビューしたてのヨルグ・イゼックの手でデザインされた「222」である。
通称〝ジャンボ〞と呼ばれた直径37㎜の2ピースケースはたった1年のみの生産で、SSが500本、SS×18KYGが120本だったのに対し、18KYGケースは100本が作られたのみ。しかし今回のリメイクに際してヴァシュロン・コンスタンタンは、最も稀少な18KYGケースのRef.44018をイメージモデルに選んだ。しかも単純な完全復刻を狙わずに、ヒストリーク・コレクションの1本として巧みなアレンジを加えてきたのだ。
最も大きな違いは、現在でも永久カレンダー系のベースとして使われている超薄型自動巻きのキャリバー1120を、ハイビートのキャリバー2455/2に変えたこと。搭載ムーブメントの厚さが1.15㎜増加し、それに伴ってケースの3ピース化と、ケースバックのトランスパレント化が盛り込まれたが、プロポーションの変更は最小限に留められている。
オリジナルの誕生から45年の時を経て、新しい222が最も進化した点は、ブレスレットの剛性感だろう。オリジナルのブレスレットは薄く、アンティーク市場で見かけるものの多くはコマが緩んでいるため、腕に巻いた感触は柔らかい。対して新しい222のブレスレットは厚めで、各リンク間のクリアランスが詰められているため硬い感触だ。18KYGケースの重量を考えればこれは適切な配慮と言えるだろう。222のバックルには微調整機構が備えられていないため、筆者は小指の先が少し入るくらいのやや緩めにブレスレット長を調整したのだが、しばらく着用していただけで、最初に感じた重量感がスッと消え、まったくと言って良いほど過剰な重さを感じなくなった。これはヘッド部分とブレスレットの重量バランスが適切で、なおかつバックルのホールド感が優れている証拠だ。ちなみに筆者の腕周りは約17㎝だが、キツめのフィッティングを好む人なら、もうひとコマ詰められる程度の余裕もあった。万人をカバーするジャストな調整は難しくても、もともとの重量バランスが優れているため、緩めに着けても装着感は極めて良好だ。
搭載されるキャリバー2455/2は、現代のヴァシュロン・コンスタンタンで最も多く使われている自動巻きの基幹ムーブメントがベース。原型は2005年にVCVJで設計された2450系で、同社初のセンターセコンド専用機でもあった。222に搭載された2455/2はデイト表示を残しつつも、センターセコンドを廃した2針仕様。衝撃緩和装置付きのストップセコンド機構は生きているが、秒針そのものは存在しないという変則的な仕様だ。そのため時刻合わせを神経質に行う必要もないし、72時間程度の着用では、分単位まで誤差が累積することもあり得ない。
とはいえ、それじゃあテスターとして面白みがないので、じっくりとデイト表示を眺めてみることにした。2455/2のデイト表示は、早送り機能付きの瞬転式。だが実際には、若干の予備動作が存在する。テスト機では23時22分頃からデイトディスクが動き始め、同45分頃にはデイトディスクの5分の1ほどが回転した状態に達し、ここで1回動きを止める。ここからカシャリと日付が切り替わったのは、だいたい0時07分~10分の間で、この手のデイトモデルとしては標準的な誤差の範疇だろう。巻き上げは片方向だが、ローターが空転するベアリングのシャラシャラ音も小さく、じっくり聞かなければ分からないほど。
針回しの感触は重めだが、軽過ぎるよりもこちらのほうが好みだ。また乱暴にリュウズを押し込んでも、センターセコンド輪列にありがちな分針の飛びは皆無だった。静態での歩度チェックでは、姿勢差誤差が大きめに出たが、平均的には精度に影響を及ぼすほどではない。強いて言うならリュウズを上にしても下にしても、横置きにするとマイナス傾向になるので、保管は平置きがベターだろう。これはヒゲゼンマイの巻き出し位置に起因すると思われるので、2450系全体に共通する個性と言えそうだ。
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