[アイコニックピースの肖像 34] ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ

2016.06.03

Model 222
222周年を飾った〝スポーティエレガンス〟の嚆矢

222
創業222周年記念モデル。Ref. 44018。1977年のバーゼルワールドで発表され、88年までカタログに掲載された。搭載するのはジャガー・ルクルト製のCal.920をモディファイした名機Cal.1121。自動巻き。36石。1万9800振動/時。SS(直径37mm)。120m防水。ヴァシュロン・コンスタンタン蔵。

1974年をピークとして、スイス製時計の売り上げは急減した。これに対して各社は、SS製のスポーツウォッチで、新市場の開拓を狙った。代表作はパテック フィリップの「ノーチラス」(76年)、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」(72年)、そしてヴァシュロン・コンスタンタンの「222」(77年)である。

 222の意匠を手がけたのは〝マーヴェリック〟こと、鬼才ヨルグ・イゼック。彼はかつて、本誌の取材にこうコメントしている。「デザインはヴァシュロン・コンスタンタンのアンドレ・ゴアから発注された。そして同社に〝エベルやパテック フィリップのようなスポーツウォッチを作って欲しい〟という要望を出したのは、シンガポールの有力リテーラーだった」。おそらくはシンシアだろう。

 なおヴァシュロン・コンスタンタンは、222発表に先立つ2年前に、SS製の「クロノメーターロワイヤル」をリリースしている。このスクエアケースのモデルは、明らかにヴァシュロン・コンスタンタン製スポーツウォッチの先駆者であった。しかしデザインは凡庸この上なく、ムーブメントも、ジャガー・ルクルトの〝失敗作〟キャリバー906をベースとする、キャリバー1096だった。

 ヴァシュロン・コンスタンタンが新進気鋭のデザイナーに期待したのは、新しいデザインと高性能だった。イゼックはワンピースケースにねじ込み式のベゼルを与えることで、約6㎜の薄いケースに、120mという高い防水性能を加えたのである。しかも搭載するムーブメントは、名機1121だった。

 もっとも222のセールスは、ライバル同様、あまり芳しくなかったようだ。ヴァシュロン・コンスタンタンのオンライン掲示板「アワーラウンジ」でモデレーターを務めるアレックス・ゴドビは、37㎜(SS)の生産数は、わずか500本と推定している。

222を特徴付けるねじ込み式のベゼル。切り欠きに専用工具の爪を引っかけてベゼルを回すと、ムーブメントが取り出せる。ただスクエアケースの222(Ref.46004)では、一般的な3ピースケースに改められた。標準的な黒文字盤。文字盤はおそらくシンガー製で、仕上げは塗装である。下地を荒らしたのは、視認性を改善し、さらに色の食いつきを良くするため。ただ必ずしもスポーツシーンだけを意識したわけではない証拠に、222には発表直後からシルバー文字盤も用意されていた。特徴的なケースサイド。薄いCal.1121を搭載し、かつ裏蓋とミドルケースを一体化させたため、非常にスリークである。 Cal.1121のベースとなったジャガー・ルクルト製のCal.920は、リュウズがジョイント式のため、裏蓋を開けずともムーブメントの取り外しが可能である。そのためイゼックは、ミドルケースと裏蓋を一体化させることができた。なお222には複数のバリエーションがある。ケース素材はSS、18KYG、そしてSS×18KYGコンビの3種類。サイズは37mm(Ref.44018)、34mm(Ref.46003)、スクエア(Ref.46004)、そして25mm(Ref.60001)である。34mmサイズはJLC製のCal.889を改良したCal.1124を、25mmサイズはクォーツのCal.1009/39を搭載していた。