ヴァシュロン・コンスタンタンが“超複雑腕時計”の王座を奪還

2017.02.03

今回の開発において陣頭指揮をとったレ・キャビノティエ&プライベート・クライアント・ディレクターのドミニク・ベルナス。

——今回のSIHHで、レ・キャビノティエから同時に発表したグランソヌリも素晴らしい超複雑時計ですが、いうなればあれは“マニュファクチュールの時計”です。現に我々は、懐中時計ではグランソヌリを作り続けてきましたし、卓抜した技術さえあれば、誰にでも作ることが可能です。しかしセレスティアはまったく異なります。回帰輪列も含めて、たったひとりの時計師のアイデアから生まれた、純粋な“創造物”なのです。

 

——セレスティアは、確かに“超複雑時計”に分類されますが、“時計を分かっている人”が見れば、実にシンプルだと見抜くのではないでしょうか? 私はこの“分かる”という感覚を大切にしています。例えば、セレスティアに平均大陽時用の永久カレンダー搭載が絶対に不可欠だった理由。それは、回帰輪列を再調整するために、時計がいつ止まったかを知る必要があるからです。言われてみれば、実に単純な理由でしょう?

 

——レ・キャビノティエの仕事を、製品のための先行開発と捉える向きもあるようですが、私の考えはまったく違います。レ・キャビノティエの仕事は“商品を作ること”ではなく、“ラグジュアリーなサービス”なのです。私は65歳で定年を迎えますから、私自身が発表できるレ・キャビノティエの時計はこれが最後になるかもしれません。おそらく、現在取り組んでいるプロジェクトが完成するのにあと8年、私が68歳になる頃でしょうから。

 

——また近年は、独立時計師などの個人作家が、こうしたユニークピースに近い時計を手掛けることも多いようですね。確かに彼らは、時計産業を賑やかなものにしてくれました。しかし、そうした作品とレ・キャビノティエの作品には、決定的な違いがひとつあります。それは、メゾンに開発データが残るか、ということです。たとえ60年後でも、100年後でも、ヴァシュロン・コンスタンタンが存続している限り、メンテナンスを行うことが可能なのです。とは言っても、私は決して商品で他社に勝ちたいわけではありません。“良い時計”が作れれば、私はそれだけで満足なのです。