2011年、ラドーのCEOに就任したマティアス・ブレシャン氏。ラドーの哲学とも言うべき革新性と独創性は、社内で定期的に行われるブレインストーミング・ミーティングの成果だという。「この会議には社内のさまざまな部門から多様な人材が参加します。最大の特徴は〝ルール〟が一切ないこと。経営的にできるかできないかなどの制約を設けず、究極的にオープンでないと優れたアイデアは出てきません」。
以降、ラドーはハイテクセラミックスの開発を加速させた。ブラックだけでなく、ホワイトハイテクセラミックスを初めて採用し、片や、プラズマ処理によってメタルをまったく含まないにもかかわらずプラチナカラーを実現したハイテクセラミックスを開発したかと思えば、その一方で、ハイテクセラミックスとメタルの合金である「セラモス」を導入し、独特なプラチナスティールの光沢に加え、イエローゴールドやローズゴールドの輝きをも再現することに成功し、ハイテクセラミックスに新次元の表現の可能性を拓いた。
ハイテクセラミックス製のケースはモノブロックで構成され、両サイドのインサートパーツはハイテクセラミックスと別の素材のコンビネーション。自動巻き(ETA2894A2)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。ハイテクセラミックス(直径45mm)。100m防水。39万9000円。
ムーブメントの地板と受けには軽量なアルミニウム、ケースには通常の約半分の重量のハイテクセラミックスを採用した極めて硬く、驚くほど軽いモデル。手巻き(Cal.RHW1、ETA6497-2ベース)。17石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約53時間。直径44mm。10気圧防水。42万円。
リュウズを廃し、代わりにケースサイドにタッチして一定のパターンで指を動かすと、絶縁体のケースとムーブメントの間に配された4つの電極がその動きを検知。それがICに伝えられ、モーターが針を動かして時分針の調整を行う。クォーツ。ハイテクセラミックス(縦42×横32mm)。27万3000円。
ラドーCEOのマティアス・ブレシャン氏は言う。「ラドーにとって大事なものは革新的な素材とデザインです。私たちは、トゥールビヨンを開発するような複雑時計のメーカーにはなりません。ですが、近年は、ムーブメントにも革新をもたらしています」。こう言って、ブレシャン氏は2013年に発表した「エセンサ セラミック タッチ」を取り上げた。「この時計にはリュウズがなく、ケースサイドを触ることで、時刻調整ができます。ちょうど、スマートフォンのタッチパネルを指で操作する感覚です。こうした革新技術の開発を私たちは社内およびグループ内で行っています」。これは、スウォッチ グループに属するラドーの大きなアドバンテージのひとつである。
さらに、ブレシャン氏は続ける。「革新にはさまざまな手法がありますが、大きくふたつの方向性があると考えています。例えば、軽くする、小さくする、使い勝手を良くするなど、マーケットからのフィードバックを反映させるような漸進的な進化と、それまで市場には存在しなかったものを創出するという破壊的なイノベーションです。ラドーが目指すのはあくまでも後者であり、今ないものを創ることこそ、我々にとって大切なことなのです」。