2024年1月に、ゼニスのCEOに就任したブノワ・ド・クレーク。パネライでCOOを務め、IWCの北米CEOだった彼は、いわば縁の下の力持ちだった。いきなり表舞台に立った彼は、ゼニスをどう舵取りしようとしているのか? しかも、歴代ゼニスのCEOには、きら星のごとき人材が連なっていた。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年9月号掲載記事]
ゼニスの本質とは歴史とクラフツマンシップそして正統さにある
ゼニスCEO。スイス生まれ。大学を卒業後、タグ・ホイヤーの中東やリシュモン グループ本社での勤務を経て、2004年にIWC の北米部門のCEOに就任。後に東北アジアの責任者となる。11年にパネライのインターナショナルセールスディレクターとなり、21年からは同社のCOOに就任した。24年1月から現職。今後の方針として、生産量は増やさないことを明言した。
「ゼニスのことはすでに知っていると思っていました。しかし、CEOとして就任したとき、知らなかったゼニスを発見したのです。それは歴史とクラフツマンシップですね。そして、ゼニスの本質である正統さです」。しかし、ゼニスの正統性とは、大きくエル・プリメロに拠っている。今後はどうするのだろうか?
「エル・プリメロはゼニスの背骨です。これはブランドの正統性の証しですね。そしてゼニスは来年、160周年を迎えます。多くのブランドが160年を祝うことができるわけではありませんが、私たちは同じ場所で160年を祝えるのです。その間に、戦争や災害があったにもかかわらず、ですね。これもブランドの正統性を特別なものにしているのです」
彼が強調するのは、その歴史の豊かさだ。
「私たちのマニュファクチュールには、情報やブランドの記録がたくさんあります。社内に保管されたアーカイブの長さは1マイルもあるのですよ。それらを使い、改善し、ゼニスを発展させていきます」
2024年の新作。既存のクロノマスターより高価だが「競合ブランドより少なくとも50%はリーズナブル」(クレーク)なコンプリケーションだ。商品構成をピラミッド状に変えていくための試みか。10秒で1回転する通称「エル・プリメロ2」を搭載する。自動巻き(Cal.エル・プリメロ3610)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径38mm、厚さ14mm)。5気圧防水。176万円(税込み)。
しかしLVMHグループの各社は、ゼニス同様、クロノグラフを前面に出している。タグ・ホイヤーに至っては、その歴史も長い。各社との違いをどう出すのだろうか?
「どちらも優れたブランドですが、競合はないと思います。価格帯もイメージも異なりますしね。それに、ゼニスの顧客は慎重に購入を考える人々です。そして一度、ゼニスを手にすると、また買うようになる」
クレークが強調する歴史を考えると、「エリート」コレクションがおざなりになっているのはもったいないように思える。しかも、LVMHグループの中で、おそらくエリートはほぼ唯一のドレスウォッチコレクションだ。今後これを拡大する予定はあるのだろうか?
「私のオフィスにマイクでも仕込んだのですか?(笑)エリートはゼニスのピラーのひとつですね。私たちはドレスウォッチのセグメントに注目はしていますが、全体の生産量を増やさず、シンプルに保ちます」
では、来年の160周年はどのように祝うのだろうか?
「160周年を迎える来年は、花火を打ち上げるのではなく、ゼニスのクラフツマンシップをいっそう重視しますよ」