時計ハカセこと『クロノス日本版』編集長の広田雅将が、傑作ムーブメントについて記したコラムを6回分、webChronosに掲載する。第5回はモリッツ・グロスマンの「Cal.102系」。Cal.100系の進化や、その美点に触れる。
Text by Masayuki Hirota(Chronos Japan)
[ムーブメントブック2023 掲載記事]
小径ながらもグロスマンらしさが横溢する「Cal.102系」
小径のCal.102.0を改良したのが、2017年のCal.102.1である。基本的な構成は同じだが、輪列のレイアウトが変更されたほか、受けの形状も100系に近くなった。携帯精度を改善するため、振動数は100系の1万8000振動/時から、2万1600振動/時に向上した。直径26mm、厚さ4mm。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。
現行品らしからぬ設計と仕上げを持つモリッツ・グロスマン。基幹ムーブメントのCal.100系で成功を収めた同社は、続いてコンパクトなCal.102系をリリースした。
Cal.100系は、昔の懐中時計を今によみがえらせたようなムーブメントだった。取り外し可能な巻き上げ機構や、プッシュボタンで解除するストップセコンド機構、凝った巻き上げヒゲなどは、現行機とは思えないほどに手が込んでいる。こういったメカニズムは新生モリッツ・グロスマンに際立った個性を与えたが、半面、そのムーブメントが大きく厚くなったことは否めない。対して設計者のノルウィート・ウィンデッカーは、小さくて薄いムーブメントをラインナップに加えようと考えた。誕生したのが、Cal.102.0である。
直径26mm、厚さ3.45mmというサイズは、自動巻きの世界標準であるCal.ETA 2892A2にほぼ同じ。しかし、モリッツ・グロスマンらしい凝った作りはできるだけ残された。一例が、穴石で保持する香箱(ジュエルド・バレル)だ。これは香箱の真を点ではなく面で受けることで、香箱の位置決めを正確にし、かつ香箱真の歪みを極力抑えるもの。ゼンマイトルクの弱い腕時計には過剰な機構だが、長期の信頼性を考えてあえて採用された。
また、時分針を駆動する2番車は、テンプにかかることを嫌ってオフセットされた。普通、2番車が中心から外れると、時刻合わせの際に針飛びが起きやすい。対して、Cal.102系では、分針を支える筒カナに板バネを加えることで、針飛びを防いでいる。腕時計のムーブメントらしからぬ凝った機構だが、結果として、Cal.102系は、針合わせの感触が極めて良くなった。また、テンワの慣性モーメントも、13mg・cm2と、小径のムーブメントとしてはかなり大きい。併せて、振動数を1万8000振動/時から、2万1600振動/時に高めることで、実際に使用したときの精度(動態精度)を改善している。
この改良版が、現行版のCal.102.1である。改良を手掛けたのは、Cal.100系の設計者であるイェンス・シュナイダー。輪列が標準的なものに改められたため筒カナに板バネを被せる必要がなくなり、リュウズの感触はさらに良くなった。加えて、6時位置にスモールセコンドを持つことで、モリッツ・グロスマンは、日本市場から要求の多かった、小径の男性用モデルを作れるようになったのである。
Cal.102系の持つ実用的な薄さと小ささは何物にも代えがたく、ハマティックなど付加機能を載せるベースムーブメントとしても活用されている。もしあなたが、古典的な手巻きムーブメントを探しているならば、Cal.102系搭載機は、ぜひ選択肢に含めるべきだろう。100系ムーブメント同様、触ればきっと、その真価を理解できるに違いない。