モンブランは、はるか深海の水深4810mの水圧にも耐えられるダイバーズウォッチ「アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810」を発表した。高い防水性能を備えるだけでなく、ケース内部を無酸素状態にすることで、部品の寿命を延ばし、結果的に精度を向上させた。未知の深海への“無酸素登頂”を目指す腕時計である。
モンブラン:写真 Photographs by Montblanc
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年11月号掲載記事]
モンブラン/アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810
2023年11月、フランスの研究者による測定で、西欧最高峰のモンブラン山の標高は4805.59mを記録した。21年の測定値よりも2.20mも低くなった。山の標高が下がることを不思議に思う向きもあるかもしれない。だが、その理由は単に天候によるものだ。モンブランの山体(岩盤)そのものは海抜4792mだが、その上に乗る氷と雪の層は毎年数m上下するというのがその理由である。フランス、イタリア、スイスといった周辺諸国の正規の海抜基準の違いによるものではない。
他方、万年筆をはじめとして腕時計、ジュエリー、革製品を扱うモンブランのホワイトエンブレムは、1913年以来ほとんど変化していない。このマークはモンブランの山の頂に残る雪をイメージしたもので、6つの星の角はモンブラン山に属する6本の氷河の象徴である。ちなみに、この山の標高をかつて表していた数字である4810が、モンブランを代表する万年筆コレクションの「マイスターシュテュック」のペン先に刻印されている。なお、「1858アイスシー オートマティック デイト」に記された1858という数字は、モンブランに吸収されたミネルバの原点である、シャルル・ロベールが工房をスイス・ヴィルレに設立した年だ。
そして2024年、モンブランはブランド名と同じこの著名な山を新たな方法でたたえることとなった。それはモンブランに用いられていた標高と同じ4810mの防水性を備えた「アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810」の発表である。この腕時計はモンブランの腕時計の中で最も防水性の高いものであり、山の頂の高さと深海を結び付けたものだ。なお、06年に限定100本で発売された「スポーツ タンタラム オートマティック」は、モンブランの創業年1906年にちなみ、水深1906mの防水性を備えていた。この新モデルの防水性能は水深4810mだが、ISO6425規格を満たすため、実際には表記の1.25倍以上の水圧に耐えられる。
無酸素状態のケース
ケースは素材にグレード5チタンを採用し、ねじ込み式リュウズとリュウズガードを3時位置に配したつくりだ。モンブランの腕時計の中で最も高い水圧に耐えられるこのダイバーズウォッチの裏蓋には、海中のダイバーから見た氷を、立体的なレリーフで表現している。モンブランによれば、レーザーによる酸化作用を用いて、この氷を彩っているのだという。
22年以降に発表された「アイスシー」コレクションと同様に、文字盤はメール・ド・グラースという名の、モンブラン北壁にあるフランス最大の氷河からインスピレーションを得たものだ。なお、この模様はグラッテボワゼと呼ばれる技法を用い、深みと輝きを表現している。この技法は一般的な文字盤の製造に比べ、約4倍の時間を要する手間の掛かるものだ。加えて、ホワイトカラーのスーパールミノバが塗布された針、インデックス、そしてベゼル上のゼロマーカーは、暗所では氷河を連想させるブルーに輝く仕様になっている。
ケースの直径43mmというサイズは深海に対応したダイバーズウォッチとしては比較的小さめだ。だが、19.4mmという厚さは、やはり厚く存在感がある。
アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810はモンブランの「ゼロ オキシジェン」シリーズのひとつだ。ケース中を無酸素状態とすることで、酸化を促す湿気を排除し、パーツの寿命を延ばしつつ、精度を維持する技術が搭載されている。なお、ケース内には酸素の代わりに、不活性ガスが充填されている旨の証明書が付属する。リュウズを操作しても防水性が損なわれることはないが、オーバーホール後のケース内に酸素がないと証明できるのはモンブランの公式サービスセンターだけだ。
それよりも興味深いのは、この腕時計に新しく搭載された、COSC認定自動巻きCal.MB29・29だ。約5日間のパワーリザーブを備えたこのムーブメントは、リシュモン グループのムーブメントメーカー、ヴァル フルリエが18年に発表した“リシュモン ムーブメント”のひとつである。また、ストラップはクイックチェンジシステムを採用した、フォールディングバックル付きのブラックカラーのラバー製だ。販売価格は130万200円である。
ブロンズとバーガンディカラーのニューフェイス
銅にアルミニウムを加えたブロンズのケースは、時間の経過とともに緑青が生じる。30気圧防水を備えており、ムーブメントはセリタのCal.SW200をベースとした、Cal.MB 24.17を搭載。なお、アイスシーコレクションの腕時計は、ダイバーズウォッチのための規格、ISO 6425を満たしている。自動巻き(Cal.MB 24.17)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。ブロンズケース(直径41mm、厚さ12.9mm)。30気圧防水。56万2100円(税込み)。
24年に発表されたアイスシーコレクションはこのモデルだけではない。「アイスシーオートマティック デイト」には「氷河に降り注ぐ、暖かな夕日」の色調からインスピレーションを得たふたつの新作が加えられた。
そのうちのひとつのRef.MB133300は、グレイシャー模様が施されたブラックカラー文字盤に、ブロンズ製ケースを組み合わせ「氷河に沈む夕陽の色」を表現した腕時計である。この腕時計に採用されているブロンズは、銅に錫を加えた本来の意味でのブロンズではない。それは銅にアルミニウムを加えた合金である。とはいえ、本来の意味でのブロンズや銅に亜鉛を加えた真鍮と同様に、酸化すると緑青を生じる。
搭載する逆回転防止ベゼルには、アルマイト加工が施されたアルミニウムが使用されており、そのカラーリングはブラウンとブラックのツートンカラーだ。なお、文字盤にはミネルバの輸出用商標をアレンジした、モンブラン アイスシーのロゴが配されている。また、裏蓋にはこのコレクションの特徴である氷山のレリーフがあしらわれている。付属するストラップは、ブラウンカラーで縁取られたラバー製のもので、クイックチェンジシステムを採用しているため容易に取り外し可能だ。価格は56万2100円である。
もうひとつの新作であるRef.MB132291は、バーガンディカラーの文字盤を備えたモデルだ。この文字盤の色合いは氷河を照らす夕日の深い赤をイメージしている。この腕時計の価格は48万9500円であり、逆回転防止ベゼルはブラックセラミックスがインサートされたものだ。なお、付属するステンレススティール製のブレスレットのバックルは微調整可能である。これもクイックチェンジシステムを搭載したものだ。どちらの腕時計のケースも直径は41mmであり、30気圧防水を備えている。ムーブメントにはセリタ製のCal.SW200をベースにした、Cal.MB24・17を搭載している。パワーリザーブは約38時間だ。
新たなモンブランファンを見いだす腕時計
2024年に発表された「アイスシー オートマティック デイト」のうち、バーガンディカラーの文字盤を備えたモデル。「氷河を照らす夕日の深い赤」をイメージしたモデルだ。文字盤のグレイシャー模様はグラッテボワゼと呼ばれる技法で表現されている。自動巻き(Cal.MB 24.17)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径41mm、厚さ12.9mm)。30気圧防水。48万9500円(税込み)。
アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810はモンブランにとって初の深海の水圧に対応できる腕時計ではない。とはいえ、2006年に発表されたスポーツタンタラム オートマティックよりも仕様は魅力的であり、搭載するムーブメントのパワーリザーブはより長い。また、モンブランの標高の数字と、同じ深さの水圧に対応できるという防水性能を腕時計に持たせるというアイデアは魅力的だ。22年に発表された1858 アイスシー オートマティック デイトと同様に、この腕時計も新しい顧客をモンブランに引きつけることになるだろう。
アイスシーコレクションの新作は、ブロンズ製ケースのモデル、バーガンディカラーの文字盤を備えたモデル、そして深海に対応したフラッグシップモデルという、いずれも魅力的なものだ。最後は、英国の詩人であり画家であった、ウィリアム・ブレイク(1757年11月28日〜1827年8月12日)の言葉で締めよう。「人と山が出会ったとき、偉大なことが起こる」。この言葉が、このコレクションには最適なのだ。
技術仕様
リファレンスナンバー: | Ref.MB133268 |
機能: | 時針、分針、センターセコンド、日付表示、逆回転防止ベゼル |
ムーブメント: | Cal.MB 29.29、自動巻き、2万8800振動/時、21石、COSC認定、パワーリザーブ約120時間、直径28.2mm、厚さ4.2mm |
ケース: | グレード5チタン製、アルマイト処理されたアルミ製ベゼル、両面無反射コーティングされたサファイアクリスタル製風防、4810m防水 |
ストラップ&バックル: | ブラックカラーのラバーストラップ、フォールディングバックル |
サイズ: | 直径43mm、厚さ19.4mm、重量142g(実測値) |
価格: | 130万200円(税込み) |
*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。