[アイコニックピースの肖像40]ルイ・ヴィトン タンブール

2017.06.12

TAMBOUR CHRONOGRAPH
2002年に始まった本格ウォッチメイキングの原点

タンブール オトマティック クロノグラフ GM ブラウン
現行タンブールの定番モデル。ムーブメントやケースサイズなど、基本デザインは2002年の第1作から不変だ。自動巻き。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径41.5mm)。100m防水。73万円。


 2002年から本格的なウォッチメイキングを手掛けるルイ・ヴィトン。第1作が、太鼓を模したケースを持ったタンブールである。そのデザインは、1540年の携帯時計=ドラムクロックに由来するもの。持ち運び可能なドラムクロックは、機械式時計の黎明期に生まれた〝旅時計〟であり、旅をルーツに持つルイ・ヴィトンが、オマージュの対象に選んだのは当然だった。現在ヴァイスプレジデントを務めるハムディ・シャティはデザインの理由をこう説明する。「タンブールのアイデアは、ルイ・ヴィトンのデザイナーたちの思い付きから生まれた。彼らはひとつのブロックで構成される〝何か〟を作りたかった」。

 いくつかのファーストモデルのうち、トーキングピースとなったのはゼニスベースのLV277。04年には「タンブール トゥールビヨン」を、05年には実用的な「タンブール レガッタ」と「タンブール ダイバーズ」を加えた。もっとも、本コレクションが質量ともに大きな飛躍を見せるのは、シャティがVPに就任した10年以降だろう。彼はラインナップを増やし、外装の質感をさらに改善した。とりわけ注目すべきはケースの磨きである。太鼓型のタンブールケースは側面の曲率が大きいため、鏡面仕上げを与えるのが難しい。04年モデルも鏡面の歪みは少なかったが、シャティの就任以降、ほぼ完全な鏡面が与えられた。文字盤も同様で、色自体は従来に同じだが、下地の筋目がはっきり出るようになった。些細な改良だが、以降のタンブールはいっそうの高級感を持つに至っている。

 写真のモデルは、現行の「オトマティック クロノグラフ」である。02年初出の第1作に比べてケースはより洗練され、インデックスなども細身に仕立てられた。同じように見えて、大きく変わっているタンブール。以降は、その歴史と進化を振り返ってみたい。

(左上)刻印が施されたケースバック。装着感を改善するべく、フラットに成形されている。刻印はエッチングによるが、凹んだ部分のざらつきもよく抑えられている。搭載するムーブメントはETA2894-2。(右上)特徴的な太鼓型のケース。LV277搭載機は直径が44mmあったが、本作では41.5mmに縮小された。それに伴ってケースの張り出しは抑えられ、スリムな印象を与えている。なおハムディ・シャティの就任以降、ケースの鏡面仕上げはより質を高めた。歪みのなさは写真が示すとおりである。(中)ケースサイド。2002年の第1作以降、すべてのタンブールは風防を支えるベゼルを持たない、2ピースケースである。ガラス面の大きな2ピースケースで100mの防水性を持たせたのは、極めて野心的な試みだった。(左下)特徴的なラグ。別部品のラグはケース内部に固定されており、ガタツキはまったくない。(右下)良質な針と文字盤。かつての文字盤は外部のサプライヤーから供給されていた。しかし現在は、ラ ファブリク デュ タン ルイ・ヴィトンによって総合的にプロデュースされている。下地の筋目処理が見えるほど繊細な仕上がりは、ブラウンを薄いメッキで施したため。また針に使われるイエローも、極めて鮮やかな発色を持つ。