ムーンフェイズ再発見[H.モーザー 高精度ムーンフェイズの秘密]

2017.06.20

文字盤とその下のムーンディスクを除くと、エンデバー・ムーンのムーンフェイズ機構が見られる。中心にあるのが時針を駆動するツツ車(アワーホイール)。ここから2枚の中間車を経由して、回転速度を減速させ、ムーブメント全体を覆うほど大きなムーンディスクを下から駆動する。

ムーンフェイズ機構を駆動する輪列は、12時間で1回転する時針を駆動するツツ車から動力を取っている。上の写真で、ピンセットが指し示す歯車の中心に位置するカナが、ムーンディスクの裏側の刻みと噛み合い、大きなムーンディスクを裏側から回転させる(右下のイラストを参照)。


 高精度なムーンフェイズはどんな時、必要になるだろうか? 例えば、永久カレンダーを考えてみよう。永久カレンダーで問題になるのは2月末の扱いだ。つまり、その年が閏年であるか否か。そして、現在、一般的に使用されているグレゴリオ暦においては、閏年には次の3つのルールが適用される。①西暦が4で割り切れる年は閏年。②西暦が100で割り切れる年は閏年ではない。③その場合でも、西暦年が400で割り切れたら閏年である。この法則にのっとれば、次に問題になる年は2100年だ。この年は、4で割り切れるが、100でも割り切れる。だが、400では割り切れないので、閏年ではない。つまり、たとえ永久カレンダーを決して止めないで大切に使用していたとしても、今から85年後の2月末には、手動で日付表示を修正しなければならないのだ。

上のイラストをよく見ると、ムーンフェイズ機構を駆動する歯車の輪列構造がよく分かる。ムーンフェイズの高精度を可能にした要因は、2枚の中間車のギア比と、中心のツツ車とムーンフェイズ輪列が常時連結しているから。

ムーンディスクと、それが載る文字盤側ムーブメントの断面図。これだけ巨大なムーンディスクを回すには、さぞかしトルクが必要だろうと予想していたが、真鍮製のムーンディスクと地板の接触面積は小さく、故に、摩擦は想像以上に小さいため、特別な摩擦対策は必要ないという。


 つまり、永久カレンダーとはいっても、決して万能ではない。だが、逆の言い方をすれば、せっかく永久カレンダーを持っているのならば、日付表示を手動で変更しなければならない2100年までは、できるだけカレンダーを調整したくない。たとえそれが、ムーンフェイズ表示であっても。こう考えるのが永久カレンダーを持つ者の特権ではないだろうか? だからこそ、高精度ムーンフェイズは、永久カレンダーとセットになってこそ、初めてその価値が一層高まるのだ。

 だが、ここで紹介する「エンデバー・ムーン」(旧モーザー・パーペチュアルムーン)は、一般のムーンフェイズとはひと味違った個性を持つ。端的に表現すれば、分単位の精度で月齢を読み取り、設定し、しかも予測が可能というものだ。「高精度ムーンフェイズ」を謳う際に引き合いに出される1日分の誤差が発生するまでの期間は、1027.30年後と、とうとう1000年単位のオーダーへと突入した。

真鍮製ムーンディスクの実物。ディスクを駆動するポイントは、ディスクの裏側に設けられた二重の刻み。内側の刻みが中間車と噛み合いディスクを駆動する。外側のノコギリ歯は、9時位置のコレクターによってディスクを早送りするためのもの。