振り石を移植する試み
「マーヴィン700」と同型のムーブメントであるのなら、修理するムーブメントとは、振り石の付いた振り座の丸ごとの交換で対応できるかもしれない。しかし、佐藤氏の期待は外れた。工房でふたつの適合性の確認を依頼した結果、天真の細さに対して振り座の穴が大きく、合致しなかったのだ。振り座は天真に合わせて穴の内部を削って調整する為、同じムーブメントであっても適合しない事も多いのだ。
しかし、ドナーを前にした佐藤氏は、再び別の方法を試した。振り石のみを移植するという、より精度の求められる作業だ。この振り石を移植するという作業の難易度が、一体どれほどのものか想像できるだろうか。
折れた振り石が圧入されていた元のムーブメントと、パーツを取り出すためのドナー、それぞれの振り石を特製のタガネで押し出し、振り座から外す。石の大きさは、肉眼でなんとか見失わずにいられるほどのものだ。ドナーから得た振り石を、元のムーブメントの振り座の穴に、角度まで完全に合致させ、圧入した。
確かな技術のもと、ひとつの美しい時計がよみがえった。依頼者の手元に戻ったこの時計は今、新たな時を刻み始めている。
ちなみに今回のお代は、税別で、オーバーホール4万円、振り石修理5000円(お友達価格??)。これに加え、折れていたキドメネジも500円で交換した。
修理工房情報 「ゼンマイワークス」
住所: 東京都中央区八重洲2-11-7 一新ビル 2F
電話: 03-6262-3889
HP : https://www.zenmaiworks.jp/
創業年:2014年
社員数:4名
料金目安(税別):
オーバーホール(分解掃除)/電池交換:
・クォーツ 中心価格3万円
・手巻き/自動巻き 中心価格4万円
・クロノグラフ 中心価格6万円
・複雑時計/アンティーク 見積もりによる
・電池交換 2000円〜