時計そのものよりも、取り巻くストーリーや伝説のほうが意味を持つ
同じオークションに出品された他のロレックスの落札結果は、さまざまだった。一般的に言えば、その結果は、オークションに出品される時計のコンディションと希少性を反映していたと言える。純正の修復していない文字盤を持つ、しかしケースが磨かれ過ぎているイエローゴールドの「“ステライン”Ref.6062」は約50万USドルで売れた。“きれいな”文字盤を持つスティールケースの「“パデロン”Ref.8171」は、60万USドルで落札された。
明らかに夜光塗料が塗り直された文字盤を持つ、今やかなり人気の高い初期の「サブマリーナー Ref.6200」は、57万9000USドルと高価だった。比較すると、こぎれいなスティールの「“ダトコンパックス”Ref.6236」は、非常に希少なわけでもなく、最も望ましいものでもないのは事実だが、落札価格は26万2500USドルと相対的には掘り出し物であった。エナメル製の南北アメリカ大陸の地図を文字盤に持つ、時間のみを表示する小ぶりだが美しい「“クロワゾネ‘ザ アメリカンズ’”Ref.6284(奇妙にもケース番号がない)」は56万7000USドルで売れた。これらすべてのロレックスのロットは、疑いもなく「“ポール・ニューマン”(Ref.6239)」より、希少性も面白さもあると言えよう。しかし、オークションでは、時計そのものより取り巻くストーリーや伝説的な事柄の方がいっそうの意味を持つのだ。
1億円を超えた「デュアリティ」
ロレックスの他に注目に値すべき時計を挙げるならば、最初に生産された9本のうちの1本目のフィリップ・デュフォー「デュアリティ(No.00)」であった。これは挑戦的な入札者が91万5000USドルで落札した。別の1本が非公開だが、約半額で持ち主が変わったことを思うと、これは非常に高い落札金額といえる。
文字盤に閏年表示がある最初の腕時計として、重要なオーデマ ピゲ「パーペチュアルカレンダー(Ref.5516)」は67万5000USドルで売れた。パテック フィリップのロットは概して穏やかで、可もなく不可もない18Kイエローゴールドの「“サード シリーズ”(Ref.2499)」は45万9000USドル、文字盤をきれいにしたピンクゴールドの「Ref.1518」は97万5000USドルであった。アッパーケースはパリッとしているが、ケースの裏は使い古され、きれいに磨かれた文字盤を持つパテック フィリップのスティール製Ref.1463の、“寄せ集め”のような時計が59万1000USドルで売られたのには驚かされた。
ヴィンテージ時計の収集には、まだ多くの落とし穴がある。それほどはっきりしていない違いを見分ける、訓練された目と知識に基づいた判断力が必要とされる。今にして思えば、相対的に掘り出し物感のある時計のなかには非常にレアなピンクゴールドのヴァシュロン・コンスタンタン「Ref.4764」(38万7000USドル)やキャリバー13ZNを搭載したロンジンのスティール製クロノグラフ「“Tre Tacche”Ref.4974」(6万USドル)があった。理想を言うと、オークションの落札価格は、それぞれの時計のコンディションと希少性を反映すべきである。しかし、それはまた、極めて主観的で、しばしば文化やメディア、多種多様な影響で形成される美意識や、オークションで大きな役割を果たす人間の感情や巡り合わせをなおざりにすることになるだろう。
さておき、皆様もどうぞ良いハンティングを!
関連ニュース【17億円超で落札! ポール・ニューマンの「ポール・ニューマン」】(2017年10月27日掲載)
https://www.webchronos.net/news/15712/