アブラアン-ルイ・ブレゲの衣鉢を継いで
ブレゲが2012年に試作品を公開した クラシック クロノメトリー 7727。毎時7万2000振動の超ハイビ―トに加えて ヒゲゼンマイと脱進機にシリコンを採用。 シリコンのもつ耐磁性体という特性によって 天真の軸受けに磁石を用いてテンプを支える マグネティック・ピボットを備えた この革新的な1本がついに市販化を果たした。 初代ブレゲから培ってきた伝統の意匠に 機械式時計の常識を覆す機能は バーゼルワールドに集った多くの観衆に衝撃を与えた。
全方位から超高精度、そして超耐磁性にリーチした現代ブレゲの〝新しい発明〟である。
「ブレゲは、一家の伝統に従って、耐衝撃機構を発明するとすぐに有効性を実証するために、人前での実験に挑んだ。見守るのは、以前この機構の原理をブレゲが説明して聞かせたことのある『タレーランのサロン』に集まった多くの人々である」(『ブレゲ 天才時計師の生涯と遺産』エマニュエル・ブレゲ著 菅原茂訳)
1790年当時、フランス国民議会議長にあったタレーランたちの前で、アブラアン-ルイ・ブレゲは完成したばかりのパラシュート衝撃吸収装置を装備したポケットウォッチを「少々の興奮を覚えながら」床に叩きつけた。この実験が首尾よく終わった後、タレーランはブレゲをこう評したという。「このブレゲという悪魔は、いつも一歩先んじたことをしないと気が済まないらしい」。
「エキセントリックな発明家」であり続けた始祖と現代ブレゲの気質はなんら変わらない。それを象徴する存在が、7万2000振動/時の超高速振動とシリコン製のガンギ車、アンクル、ヒゲゼンマイ、そして天真の軸受けに磁石を用いたマグネティック・ピボットを備える新作「クラシック クロノメトリー 7727」だろう。
見どころは盛り沢山だ。まずはシリコン製のガンギ車、アンクル、ヒゲゼンマイ。シリコンは比重が低く、軽量化が容易だ。これで重力の影響は小さくなり、結果として姿勢差誤差が軽減される。また、比重が低いということは、振動数を高めるのにうってつけだ。ブレゲが「タイプ トゥエンティトゥ」で初めて採用した7万2000振動/時をこのモデルでも採用したのはしごく当然だといえよう。この超高速振動にとってテンプは高い等時性を保つ。
この時計はさらなる高精度にリーチするため全く新しい技術を導入した。天真の軸受けに磁石を採用した「マグネティック・ピボット」。軸の上下に磁力の異なるネオジム磁石を配してテンプを支えるという技術だ。これでテンプがどの姿勢にあっても天真と軸受けの位置を常に水平に保つことができ、結果として姿勢差によって生じる摩擦による誤差を最小限に抑えられることになる。事実、テスト機による実測値では縦姿勢で288度、平姿勢は292度で、平縦差もほとんど生じない。全姿勢差では最大4度。シリコンの持つもうひとつの特性である耐磁性体があればこそ、軸受けに磁石を用いることができたのだ。機械式時計のヒゲゼンマイが磁気帯びすることによって、精度に悪影響を及ぼすという事実を思い出すだけで十分だろう。
しかし、マグネティック・ピボットはブレゲが研究開発を進めているムーブメントそのものの磁気対策の研究過程で生まれた機能に過ぎないという。ブレゲの研究所長によると「磁力で天真を支えるアイデアは磁気対策の副産物に過ぎない」とのこと。その言葉を表すかのように、今年ブレゲは耐磁の自社規格を発表した。基準は「50ミリテスラ(4万A/m)の磁気にさらしても、精度が1日±5秒以内に収まる」というものだ。この基準値は段階的に高められていき、最終的には1500ミリテスラ(120万A/m)を見据えているという。
ブレゲが得手とする手彫りギョーシェ、ポリッシュ仕上げのブレゲ針などで構成される、エレガントで古典的な外装からはこの革新に満ちた技術を窺い知ることができない。ごく控えめに配された10㎐の表記と、12時位置のスモールセコンドの右斜め上に置かれた10分の1秒計が古典のそれとは明らかに違うことをそっと主張している。
現代ブレゲは、始祖が目の肥えた来賓たちを前にして行ったデモンストレーションを、今度はバーゼルワールドという大多数の観衆の目の前で演じてみせた。その第二幕は、おそらく来年以降も続くだろう。床に叩きつけるような大仰な動作に依らず、もっと静かに、しかし声高に。
繊細な手彫りギョーシェが目を惹くブレゲの野心作。クラシックな外観とは異なり、ムーブメントにはシリコン製ダブルヘアスプリングと脱進機を採用。シリコンの耐磁性体という特性を生かして、磁石で天真を支えてテンプを常に水平に保つマグネティック・ピボットを採用。10ヘルツの超高振動と相まって極めて高い精度が期待できる。
手巻き(Cal.574DR)。45石。7万2000振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KWG(直径41mm)。438万円。