選ばれし超高精度「V.F.A.」
2018年のバーゼルワールドで大きな話題となったのが、グランドセイコーの「V.F.A.」である。
1969年に発表された初代V.F.A.は、既存のムーブメントを調整することで、日差±2秒以内という静的精度をたたき出した超高精度機である。グランドセイコーは現代の手法で、伝説の超高精度機を見事に復活させた。
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(右)ハイビートのCal.9S85に特別な選別と調整を施した限定モデル。ムーブメント開発を担当した藤枝久氏いわく「静態精度以上に、動態精度にこだわった」とのこと。ケースも、おそらくグランドセイコー史上随一の完成度を誇る。自動巻き(Cal.9S85)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。Pt(直径39.5mm)。世界限定20本(国内販売分は完売)。550万円。(下)特別なチューニングが施されたCal.9S85。
今年、復活を遂げたグランドセイコー「V.F.A.」。既存のムーブメントを調整して高精度を与える手法は新作でも踏襲された。「V.F.A.をやるなら、毎秒10振動の9S85をベースにすることが絶対条件でした」。そう語るのは、セイコーインスツルでV.F.A.のプロジェクトに携わった藤枝久氏だ。毎秒8振動も検討したが、V.F.A.の精度を出すなら、毎秒10振動が必須だったという。企画が始まったのは2年前。ベースになるムーブメントを集めて、基準を満たすものを20個選んだ。「調整で精度を追い込むのは難しくありません。でも、日較差などは調整で追い込むのは難しいので、検査にかけられたすべての9S85をチェックして、V.F.A.規定を満たすものを選別しました」。
その素性の良いムーブメントを、腕利きの時計師がチューンしてV.F.A.に仕立てたとのこと。要する期間は、選別やエイジングなどを含めて3カ月弱。一般的なグランドセイコーの17日間に比べると、約5倍だ。「現場からは、選別にも調整にも手間がかかりすぎるからやめてくれ、と言われました。でも、いい加減なことはできない」(藤枝氏)。
添付されるV.F.A.の証明書には、セイコーの保証する精度が記載されている。V.F.A.と呼ぶには緩い気もするが、藤枝氏いわく「最低限の数値」とのこと。「実際は日較差も姿勢差誤差もほぼありません」。
セイコーの意地が作り上げた超高精度機、グランドセイコーV.F.A.。残念ながら国内ではすでに完売だが、その選び抜かれた超高精度は、採用された9S85そのもののポテンシャルの高さを証明しているのだ。