ヴァシュロン・コンスタンタン / コニサーたちの選択

2020.09.13

PATRIMONY

正統なケースプロポーションへと回帰を果たした“現代ヴァシュロン・コンスタンタン”の始祖

1950~60年代を頂点として、実験的とも呼べる多様なケースプロポーションを模索してきたヴァシュロン・コンスタンタン。ヒストリカルピースの愛好家たちの目を愉しませてくれる、多様なファンシーラグはその代表的な事例だろう。その一方で、ヴァシュロン・コンスタンタンには“正調”とも呼ぶべきプロポーションの作法があった。それを蘇らせた「パトリモニー」こそ、現代性を獲得したヴァシュロン・コンスタンタンの象徴なのである。

 フォーマルな席で身に着けるドレスウォッチの基本となるのは、無粋な秒針を持たないシンプルな薄型2針のスタイルだ。古来、紳士用の腕時計とはこうした表情を持つことが正調とされてきたが、デザイン要素がシンプルになればなるほど、個々のプロダクトに個性を盛り込むことは難しくなる。しかし現在ほど〝個性的であれ〞という主張が少なかった時代にあっても、ヴァシュロン・コンスタンタンの生み出す腕時計には、ひと目でそれと分かる特徴があった。ひとつはやや短めに仕立てられた分針のバランス。もうひとつはケースに対して幅を絞ったラグの位置である。このため同社のラウンドモデルは、通常の感覚よりもひと回り細いストラップを取り付けることが標準的であった。誤解を恐れずに言えば、ヴァシュロン・コンスタンタンが腕時計に好んで用いたプロポーションは、ひどく繊細で華奢なのである。しかしこうした〝伝統的なスタイル〞はいつしか忘れ去られてしまう。
1950年代から封印状態にあったというアーカイブの〝木箱〞が開封されて、膨大な文書の整理、分類、分析が始められたのは実に2002年のこと。その過程で発見された資料を換骨奪胎することで生まれた〝最初の成果〞が、04年にひっそりと発表されたパトリモニーの2針モデルだったのだ。正統なヴァシュロン・コンスタンタンのプロポーションを現代に蘇らせたパトリモニー。当時同社がこれを〝現代的なパトリモニー〞(=旧称パトリモニー・コンテンポラリー)と位置付けながらも、どこか古典的な風情を漂わせていたのは、こうした経緯によるものだ。そして現在もなおパトリモニーは、象徴的な存在として生き続けるのである。


パトリモニー・マニュアルワインディング

パトリモニー・マニュアルワインディング
2004年に発表された手巻きの2針モデル。現行パトリモニーの原点であると同時に、現代のヴァシュロン・コンスタンタンが持つ体系的なデザインコードは、このモデルを出発点として再構築されていった。緩やかなボンベシェイプのダイアルに沿わせるように、楔形のインデックスや、バトンハンドの先端部分にも、柔らかなカーブが加えられている。
手巻き(Cal.1400)。20 石。2万8800 振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KWG(直径40.0mm、厚さ6.7mm)。3気圧防水。210万円。
パトリモニー・オートマティック

パトリモニー・オートマティック
2007年に追加された、自動巻きのセンターセコンドのカレンダー付きバリエーション。05年初出の搭載ムーブメントは、当時ル・サンティエに新設された自社ムーブメント工房「VCVJ」で新規設計された、同社初の自社製自動巻き。4番車を輪列の中心に置くセンターセコンド専用機として開発された。18KPG製のケースは、やや赤みの強い5Nゴールド。
自動巻き(Cal.2450 Q6)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径40.0mm、厚さ8.5mm)。3気圧防水。296万円。


パトリモニー・ムーンフェイズ & レトログラード・デイト

パトリモニー・ムーンフェイズ & レトログラード・デイト
2017年初出。高精度ムーンフェイズとレトログラードカレンダーを組み合わせたプチコンプリケーション。ほぼ180°に近い表示面積を持つレトログラードは、同社の中でも最も視認性に優れたカレンダー表示のひとつ。月齢の周期は29日と12時間45分に設定されており、調整が必要となる1日分の誤差が生じるまでに、122年を要する。
自動巻き(Cal.2460 R31L)。27 石。2 万8800 振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KWG(直径42.5mm、厚さ9.7mm)。3気圧防水。464万円。
パトリモニー・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー

パトリモニー・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー
ヴァシュロン・コンスタンタンが誇る自動巻きのエクストラフラットムーブメントに、永久カレンダーモジュールを組み合わせたコンプリケーションモデル。初出は2011年だが、2017年に写真のスレートグレーダイアルが追加されている。剛性の高い幅広のレバーとスネイルカムを組み合わせる永久カレンダー機構は、現行機の中では最も信頼性が高い設計のひとつ。
自動巻き(Cal.1120 QP)。36石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径41.0mm、厚さ8.9mm)。3気圧防水。885万円。