TRADITIONNELLE
古典的な“伝統美”を打ち出す端正な横顔を持ったビジネスパートナー
ヴァシュロン・コンスタンタンが擁する2種類のラウンドケースのうち、より古典的なアプローチを強めた「トラディショナル」。ドーフィンハンドとレイルウェイトラック、そしてシンプルなシリンダーケースという組み合わせが古典機たる所以だが、実のところ、トラディショナルの現代性はケースサイドの抑揚に集約されている。普段使いではややおとなしめのビジネスパートナー。しかしひとたびプロファイルに目を転じれば、時計趣味に精通したコニサーさえも唸らせる、濃密なディテールが集約されている。
先に触れたパトリモニーが、21世紀に入ってから新たにデザインされた〝現代性の象徴〞ならば、逆に〝伝統美の体現〞と位置付けられるコレクションが「トラディショナル」となるだろう。これは2004年に発表されたパトリモニーの派生モデルとして、07年に登場した「パトリモニー・トラディショナル」を始祖とするラウンドモデルであり、両者が別個のコレクションとして分化されるのは、実に14年のことだ。ヴァシュロン・コンスタンタンがトラディショナルに与えた〝伝統的なデザインコード〞は、ダイアル外周部に設けられたレイルウェイトラックとドーフィンハンド。これをロングホーンのシリンダーケースに収めている。正面から見る限り、やや単調な〝古典機〞の趣きだが、トラディショナルは正面と側面で大きく表情を変える。側面にわずかなステップを設け、さらにバックケースの縁にのみ、コインエッジ状の装飾を加えているのだ。サイドステップはそのままラグ側面にまで延長されており、やはり立体としての抑揚は側面から見る方が大きい。トラディショナルが持つ、こうした〝時計としての素直さ〞は、現代ならばビジネスシーンでの良きパートナーとして個性を発揮してくれるだろう。視認性の要となっているドーフィンハンドは、背の部分に稜線を設けず、センターから2分割してポリッシュとマットで仕上げたもの。この針は単体で視認性が高いのみならず、針の本数を増やしていった場合にも、明確なコントラストを約束してくれる。厚みが増してもプロポーションを壊さないケースフォルムの素直さに加え、コンプリケーションのプラットフォームとして選ばれる理由のひとつだろう。
手巻きのトラディショナルは、腕時計用スモールセコンドムーブメントの基本である、サボネットスタイルの輪列配置を採用。しっとりとした質感を持つシルバーオパーリンをベースに、視認性の高いレイルウェイトラックを組み合わせて、“伝統的”なダイアルの造形美を形づくる。アプライドのバーインデックスは、12時位置のみ楔形を変形させたものを配置。
手巻き(Cal.4400 AS)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KPG(直径38.0mm、厚さ7.7mm)。3気圧防水。225万円。
自動巻きのトラディショナルでは、より古典的なレピーヌ輪列を思わせる9時位置のスモールセコンドを採用。本来はセンターセコンド専用機のCal.2450系をベースとするため、日の裏側にバイパスを設けてスモールセコンド化している。この場合、秒カナの配置は自由に設計できるが、あえて古典的な“レピーヌ風”を選択するあたりに、老舗の遊び心が感じられる。
自動巻き(Cal.2455)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径38.0mm、厚さ8.3mm)。3気圧防水。287万円。
シンプルなシリンダーケースを基本とするトラディショナルは、やや厚みのあるプチコンプリケーションまで、ケーススタイルに破綻を来すことなく収納してしまう。センターローター自動巻きのCal.2460系にコンプリートカレンダーを重ねたこのモデルもそうした秀作のひとつ。月と曜日を表示する小窓をダイアル外周側にオフセットさせた意匠が上品だ。
自動巻き(Cal.2460 QCL)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径41.0mm、厚さ10.72mm)。3気圧防水。439万円。
旧作のベースムーブメントを刷新して2016年に発表。写真の18KPGモデルは翌17年に追加されている。基本構造は旧Cal.1141系を踏襲するが、「ハーモニー・クロノグラフ・スモールモデル」(2015年)用に新設計されたハイビート仕様がベースとなっている。マルタ十字をかたどるコラムホイールキャップなどディテールも秀逸だ。
自動巻き(Cal.1142QP)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KPG(直径43.0mm、厚さ12.94mm)。3気圧防水。時価(取材時の参考価格1320万円)。