ヴァシュロン・コンスタンタン / コニサーたちの選択

HISTORIQUES

アーカイブの調査分析が生んだ副産物からコレクター垂涎のパーマネントコレクションへ

現代のヴァシュロン・コンスタンタンにおける体系的なデザインの再構築は、2000年代初頭に始まったアーカイブの精査に端を発している。その最も優れた成果は、04年に発表されたパトリモニーに違いないが、副産物として生まれたであろうモデル群にも愛好家たちが狂喜乱舞した。03年頃から試みられてきた、直接的な“デザイン復刻版”の存在である。後年に「ヒストリーク」としてパーマネントコレクションの一翼を担うことになるこうした歴史の証言者たちは、現在も多くのコレクターたちから熱狂的に支持されている。

　熱心なヒストリカルピースの蒐集家や、歴史至上主義者たちにとって、最もヴァシュロン・コンスタンタンらしさを強く訴えかけてくるのが「ヒストリーク」だろう。2002年頃から本格的に開始されたアーカイブの精査によって、その歴史的な意義や実際のフォルムを換骨奪胎していった成果がパトリモニー（04年）へと帰結したことは既に述べたが、実を言えば、もっと直接的な副産物のほうにこそ愛好家たちは熱狂していたに違いない。例えば、チョコラトーネの愛称で知られた「トレド」の〝デザイン復刻版〞（03年／後の「ヒストリーク トレド 1952」）などが、ヒストリークの直接的な源流と言えるだろう。またキャリバー4400 ASを初搭載して08年秋にリリースされた「ヒストリーク・アメリカン 1921」以降
は、07年発表の「クロノメーター・ロワイヤル 1907」なども統合して、パーマネントコレクションの一翼を担う存在となっていく。続く10年に発表された「ヒストリーク・エクストラフラット 1955」では、現時点においてさえも世界最薄の手巻きムーブメントとして名を馳せているキャリバー1003（厚さ1.64㎜／1955年初出）が復刻再生産されるなど、まさしく〝愛好家垂涎〞のコレクションへと発展していった。近年のラインナップでは、オリジナルのラグ形状を忠実に再現した、2種の「ヒストリーク・トリプルカレンダー」や、こちらは愛称がそのまま正式名称となってしまった「ヒストリーク・コルヌ・ドゥ・ヴァッシュ1955」など、ケース造形の面で一層の冴えを見せる。歴史の中で生き続けてきたデザインは、次世代へと受け継がれてゆくのだ。

ヒストリーク・エクストラフラット 1955
2010年初出。“超薄型”をサブテーマとした同年は、世界最薄の手巻きムーブメントであるCal.1003の復刻再生産が実現し、愛好家たちを狂喜乱舞させた。時分針の長さの比率や、ケース幅に対してスリークなラグの取り付け位置（＝ストラップが細くなる）など、往年のヴァシュロン・コンスタンタンらしい“不文律”が、最も強く表現されたモデルでもある。
手巻き（Cal.1003）。18石。1万8000振動／時。パワーリザーブ約31時間。18KPG（直径36.0mm、厚さ4.13mm）。3気圧防水。342万円。

ヒストリーク・コルヌ・ドゥ・ヴァッシュ 1955
2015年初出。写真の18KPGモデルは16年に追加。防水性と耐磁性を備えたクロノグラフとしては、ヴァシュロン・コンスタンタンが1955年に初めて販売したRef.6087をモチーフとする。肉感的なラインを描くファンシーラグは、後年にコレクターやオークショニアから“コルヌ・ドゥ・ヴァッシュ”（牛の角）の愛称で呼ばれることとなるが、それがそのまま正式名称として採用された。
手巻き（Cal.1142）。21石。2万1600振動／時。パワーリザーブ約48時間。18KPG（直径38.5mm、厚さ10.9mm）。3気圧防水。620万円。

ヒストリーク・トリプルカレンダー 1942
2017年初出。この年は1942年製のRef.4240をモチーフとした本機と、1948年製のRef.4240Lを原型とする2機種が同時発表されている。両者の違いはムーンフェイズの有無だが、“クロウ”（鉤爪）と呼ばれるティアドロップラグの形状も個別に作り分けられていた。「1942」はよりふくよかな正面形状を持ち、ケース側面のトリプルゴドロン装飾とも抜群の相性を見せる。
手巻き（Cal.4400QC）。21石。2万8800振動／時。パワーリザーブ約65時間。SS（直径40.0mm、厚さ10.35mm）。3気圧防水。216万円。

ヒストリーク・アメリカン 1921
ヒストリークコレクションの先駆けとなった記念碑的なモデル。18KPGモデルは、新開発のCal.4400 ASを初搭載して2008年に発表。写真のPtモデルは2016年に追加されている。クッションケースの対角線上にリュウズを配した特徴的なデザインは、レピーヌキャリバーを載せた往年のドライバーズウォッチが原型。時分針は同社では珍しいアップルハンド。
手巻き（Cal.4400 AS）。21石。2万8800振動／時。パワーリザーブ約65時間。P（t 直径40.0mm、厚さ8.0mm）。3気圧防水。510万円。