腕時計のカレンダー表示の進化を代表的モデルと共に追う

2020.11.05

2桁大型日付表示の最高峰

緻密なマットダイアルに、完璧に磨き上げられた針やインデックス、そしてアウトサイズデイトのフレームのきらめきがコントラストをなし、それがまた視認性を高める。高低差があるはずの2桁の数字は、その差を感じさせないほど近接。時分針と小秒針のインダイアルをわずかに窪ませ、さりげなくも明確に存在を主張する。

東西冷戦に翻弄され、休眠状態にあったA.ランゲ&ゾーネが再興を果たした、その記念すべきファーストモデルだから、名前は「ランゲ1」。時分針を大きく左にオフセットしたダイアルは誕生時には実に斬新であり、そして何より世界初の2桁大型日付表示アウトサイズデイトが、大きな話題となった。特異なレイアウト、そして特殊な日付表示は、実はいずれもランゲらしい、視認性という機能優先の思想から生まれた。2桁日付表示の元祖にして、これぞ最高峰。誕生から20年の時を経た今も、そのメカニズムと美しさは決して色あせない。

ランゲ1

A.ランゲ&ゾーネ ランゲ1
ひと目でランゲ1だと分かる特徴的なスタイルは、幾何学的な調和によって普遍の美を得ている。アウトサイズデイトの調整は、ケース左上サイドのプッシュボタンで行う仕組みで、操作性にも優れる。手巻き(Cal.L901.0)。53 石。2 万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KRG(直径38.5mm)。3気圧防水。324万円。

審美性を極める機構と幾何学的なデザイン

ゼンパーオーパー国立歌劇場

アウトサイズデイトのデザインのモチーフとなったのは、ドイツ・ドレスデンにあるゼンパーオーパー国立歌劇場に掲げられている5分時計だった。これは創業者アドルフ・ランゲが、師匠にして義父であるヨハン・フリードリッヒ・グートケスとともに製作した。左の窓がローマ数字で時を示し、右の窓は5分刻みに切り替わり、分を表示する仕掛けだ。

 以前、ウォルター・ランゲ氏はインタビューでこう語った。「A.ランゲ&ゾーネを再興するに当たり、それまでになかったデザインと機構とで市場に強烈なインパクトを与えようと考えた」。そのモデルこそ「ランゲ1」である。時分針ダイアルを大きく左へオフセットしたデザインは当時、極めて斬新だった。そして2桁表示のアウトサイズデイトは、新生ランゲの高い技術力の証しであった。

 斬新でインパクトのあるデザインは、ともすれば陳腐化もしやすい。だが、ランゲ1は、1994年の誕生以来、今も同社の主力であり象徴的なモデルである。それは、市場にインパクトを与えたアシメトリーなダイアルが、視認性という時計本来の機能を追求したものだったから。時分針を左にオフセットすることで生じたスペースには、スモールセコンドとパワーリザーブ計、そしてアウトサイズデイトが配置され、それらすべての表示は一切重なることがなく、どれも見やすい。これは時計における機能美だ。そして機能美が、普遍であることは、モダンデザインの定説である。

アウトサイズデイトの1の位のディスクと10の位の十字プレートは、それぞれ専用のプログラム車で制御・駆動が行われる。1の位は31日と1日と、2日続けて「1」を表示するために、62歯のプログラム車の内、2歯が欠けている。十字プレートのプログラム車は4つの歯を持ち、内ふたつは間隔が極端に狭く設置され、「3」の表示を2日間で送る。

 アウトサイズデイトもまた、日付表示を大きく見やすくするための工夫である。今でこそビッグデイトやラージデイトの名で、同様の機構を他社も持つが、その特許はA.ランゲ&ゾーネが取得し、ランゲ1が初搭載した。1の位は0〜9の数字を記したリング状のディスクが、10の位は1〜3の数字と空欄を設けた十字型プレートが表示する。2枚は重なり合って配置されるが、その隙間はわずか0.15㎜。極限まで近接させることで段差を減らし、見栄えを良くしているのだ。ただ単に大きく見やすいだけではなく、アウトサイズデイトは、美観にも気配りされる。2桁の表示窓をゴールドのフレームで縁取っているのも、美観を高めると同時にダイアル上で存在を際立たせるための工夫。ふたつ並べた表示窓の縦横比は黄金分割に倣い、形状にまで美意識が込められている。

 美観への気配りは、ダイアル全体にも見て取れる。ふたつの窓の間のフレームを下へ延長すれば、パワーリザーブ計とスモールセコンドの各針の軸と一直線を成す。同じく窓の間のフレーム中心とスモールセコンドの軸芯、時分針の軸芯の位置関係は、正三角形を表すよう設計されてもいる。すべての表示の配置や大きさは、幾何学的に完璧に計算されているのだ。故にランゲ1は陳腐化することなく、普遍の美を宿す。

Cal.L901.0

Cal.L901.0
アウトサイズデイトのふたつのプログラム車や中間車などは、裏蓋側に置かれ、モジュールではなく、ムーブメント本体と一体化している。そのムーブメントは、ツインバレルを採用し、約3日間のパワーリザーブを得ている。全体を大きく覆う4分の3プレートやゴールドシャトン、スワンネック型緩急針などザクセン伝統のスタイルを踏襲する。

Contact info: A.ランゲ&ゾーネ ☎03-3288-6639