年次カレンダーの視認性革命
設計の妙が創出する年次カレンダーの美
ツートーンのダイアルに3つの大きな表示窓を配置。ムーンフェイズに備わる24時間計は、カレンダー調整時の目安となる。ケースサイドとラグは大胆にえぐられている。自動巻き(Cal.324 S QA LU 24H)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KWG(直径40mm)。3気圧防水。485万円。
年に一度、3月9日以外はカレンダーの調整が不要--年次カレンダーは、パテック フィリップによる発明のひとつで、1996年にファーストモデルが誕生した。月の大小を時計が自動で判別するという点では、永久カレンダーと同じ。同社の永久カレンダーが、伝統的なメインレバーで作動させる非連続型であったのに対し、新たに設計された年次カレンダーは動作の大半を歯車が担う設計となっている。
右上の図版にある日送り機構は、月表示ディスクの下に置かれている。パーツ点数は多く、その分駆動効率は落ちるが、パテックフィリップらしい完璧な加工と各パーツの磨き込みによって、摩擦を最小限にし、また各バネのテンションもぎりぎりまで落とすことで、駆動時の抵抗を抑えた。コストと時間をかけることで歯車を高効率にしているのだ。
ご覧の通り、日・月・曜日の各表示窓は、ダイアルの外周、時インデックスを置くサークル上に間隔を置いて並べられている。結果、動きが遅い時針でも、3つの表示窓には干渉しない。分針は窓に重なることもあるが、動きが速いため、その時間はせいぜい3分程度と短い。つまり視認性に優れたレイアウトなのである。曜日と月表示の窓は植字の時インデックスに寄り添うように、日付表示窓はインデックスを兼ねる位置にあり、これもまた時刻の読み取りを邪魔せず、デザイン的に整理されてもいて、いささかも込み入った印象を与えない。
こうした配置は、歯車を組み合わせた構造が可能とする。月の大小に合わせ、月末に日・月の各表示を正確に送るメカニズムは、レバーを用いた方が部品点数を減らせる。翻って歯車に頼る設計では、パーツ点数が増える。パテック フィリップの例では、年次カレンダーのムーブメントの部品点数は、レバー式を採る永久カレンダーより80個も多い。しかし、日送り機構自体は年次カレンダーの方がはるかにコンパクトだ。これが歯車の利点であり、パテックフィリップの設計の妙だ。レバーと違い、歯車は上下に積層した構造が採れる。パテック フィリップの年次カレンダーでは、日送り機構をふたつのユニットに積層した。結果、極めてコンパクトになった日送り機構は、ムーブメント上での設置位置の自由度が高く、月表示をダイアル外周ぎりぎりにまで寄せられるようになった。またスペース的なゆとりにより月表示ディスクは大きく、日表示ディスクも幅広にでき、それが大型の窓をかなえ、視認性を向上させた。ちなみに曜日表示は、月の大小にかかわらず常に7日周期なので、日送り機構とは別のユニットが作動させている。
機構をコンパクトにする優れた設計が、年次カレンダーをかくも美しくしたのだ。
右の写真は大の月の日送り。日車上にある月表示ロッキングアームはカムで押されることがなく、結果その突起は、24時間車の上にある月表示ロッキングアーム回し爪と噛み合わず、余分に日車を送ることなく1日分だけを進める。
Contact info: パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター ☎03-3255-8109