ラグジュアリーになってもその本質は変わらない
かつてCEOのジョージ・カーンはこう語った。「時計で大事なのは1にブランド、2にデザイン、そして3番目がムーブメント」。彼のデザインを重視する姿勢は、デザイナーとしてクリスチャン・クヌープを招いて以降一層顕著になった。今やIWCのデザイン部門はプロダクトの意匠だけでなく、カタログや什器、ブティックのデザインにも手を加えるようになったのである。普通ならこうしたものは外部に委託する。しかし全体の統一感とストーリー性を重視するIWCは、こういった要素まですべて内製するようになった。イメージビデオさえ自前で作る会社は、スイスの時計メーカーでも珍しいだろう。
デザイン部門を統括するクヌープはこう語る。「他のメーカーが外部のエージェンシーを使うのとは対照的に、私たちはインハウスのデザイナーと映像クリエイターを擁している。IWCはインハウスで賄いたいと思っている。というのも、成果物をコントロールできるし、ブランドが何であり、何を求めているかを分かっている人と仕事ができるからだ。また、内部のスタッフと仕事をすることで、私たちは問題を解決しやすくなるし、時間も短くすることができる」。
現在リシュモン グループは、各ブランドのデザイン部門を強化している。しかし、IWCのように、できるだけインハウスで賄おうとするメーカーは希だろう。IWCのパブリックイメージが大きく変わったのも、むべなるかなだ。
しかし、である。いくら時計の質感が向上し、デザインが洗練され、ブティックの佇まいが一変しても、パイロット・ウォッチの本質は何も変わっていないのである。例えば、ベゼルとミドルケースを一体化した2ピースケース。急激な減圧を考慮して採用されたこのケース構造は、1940年代から不変だ。製造コストを考えると、3ピースに分けた方が効率はいい。しかしIWCは頑なに、昔のスタイルを保持しようとする。ムーブメントを軟鉄製のインナーケースで囲むという設計も、一部のモデルを除いて今なお変わっていない。加えて言うと、すべてのプロトタイプをマイナス20℃から70℃までの気温差で検査するというタフなテストも、IWCの時計では必ず行われてきた〝儀式〞だ。もちろんパイロット・ウォッチもその例外ではない。筆者が見聞きした限りで言うと、IWCのパイロット・ウォッチは、外装だけでなく、中身もさらに進化したのである。
プロユースのハードツールから、実用的なラグジュアリーウォッチに脱皮したパイロット・ウォッチ。しかしひと皮剥くと、プローブス・スカフージア(シャフハウゼンの信頼)というIWC哲学は、今なおすべてのパイロット・ウォッチに脈々と流れているのである。
右は什器のスケッチ。デザインを揃えることで、コレクションにストーリー性を持たせるための試みである。
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