トゥールビヨンの種類と搭載腕時計

ここまでは、トゥールビヨンの歴史や仕組みについて紹介した。

時計ブランドとしてのブレゲが、トゥールビヨンを搭載した腕時計を発表した1980年代、この機構は10名に満たない職人しか実現できないといわれていた。しかし現在では手掛けるブランドは増え、より複雑な機構へと進化を遂げたモデルも存在している。

ここでは、トゥールビヨンのバリエーションと搭載モデルの一端を紹介しよう。

トゥールビヨンの種類

トラディション トゥールビヨン フェゼ 7047

ブレゲ「トラディション トゥールビヨン フェゼ 7047」Ref.7047BR/G9/9ZU
アブラアン-ルイ・ブレゲが考案した伝説の1本針時計「スースクリプション」からインスピレーションを得て、その典型的なムーブメント構造をデザインに応用し、2005年に誕生した「トラディション・コレクション」。コレクション初の複雑時計として誕生したのが「トラディション トゥールビヨン フェゼ 7047」である。フェゼとはトルクを安定させるために香箱に装備された円錐滑車のこと。手巻き(Cal.569)。43石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRGケース(直径41mm)。3113万円(税込み)。(問)ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211

トゥールビヨンは、ブレゲが考案したキャリッジ(ヒゲゼンマイ、アンクル、テンプ、ガンギ車)をブリッジで固定するタイプのほかにも、いくつかの種類がある。

代表的なもののひとつが「フライングトゥールビヨン」だ。これはブリッジをなくし、キャリッジが浮いているように見える機構を持つ。ブリッジを底面側だけにしたり、透明にしたりするなど、各メーカーによる工夫が凝らされている。技術的にも高度で、価格も高額だ。

セネタ・トゥールビヨン

グラスヒュッテ・オリジナル「セネタ・トゥールビヨン」Ref.1-94-03-04-04-04
高級時計において高度な発明のひとつであるフライング・トゥールビヨン。誕生は1920年、設計を手掛けたのはグラスヒュッテの熟練時計職人アルフレッド・ヘルヴィグであると言われている。両側が固定されていた従来の伝統的なトゥールビヨンに対し、ヘルヴィグが考案したエレガントな構造は裏側に片方だけを固定するもので、そのためにケージ内でトゥールビヨンが飛んで浮いている(フライング)ように見える。そのフライング・トゥールビヨンを搭載するのが「セネタ・トゥールビヨン」。自動巻き(Cal.94₋03)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWGケース(直径42mm)。Dバックル:1541万1000円、ピンバックル:1509万2000円(いずれも税込み)。(問)グラスヒュッテ・オリジナル ブティック銀座 Tel.03-6254-7266

キャリッジが球体のトゥールビヨンもある。これは「ジャイロトゥールビヨン」と呼ばれ、ジャガー・ルクルトが開発した。フライングトゥールビヨンよりもさらに希少価値が高い。

レベルソ・トリビュート・ジャイロトゥールビヨン

ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・ジャイロトゥールビヨン」
ジャガー・ルクルトは、水平と垂直の2方向に回転する球体型のトゥールビヨンキャリッジ「ジャイロトゥールビヨン」を開発し、2004年に搭載モデルを発表。キャリッジは水平方向に1分間で1回転、垂直方向に26秒で1回転し、それぞれの回転速度を変えることで、重力の影響はより平均化されるという。この機構をレベルソに搭載したのが「レベルソ・トリビュート・ジャイロトゥールビヨン」である。11時位置のデイ/デイト表示は、ダイヤルを反転させると1時位置の24時間表示に切り替わる。両面ともに機械式時計の醍醐味を感じさせてくれるモデルだ。手巻き(Cal.179)。52石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。Ptケース(縦51.1×横31mm)。3気圧防水。世界限定75本。(問)ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833

代表的なトゥールビヨン搭載モデル

トゥールビヨンをいかに美しく見せるのか、これは各ブランドに課せられた命題ともいえる。ヴァシュロン・コンスタンタンの場合、1880年から使い続け、長く同ブランドのアイコンとなっている「マルタ十字」をあしらったデザインが特徴だ。大人気コレクションに2019年に登場した「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」ではトゥールビヨンには珍しくステンレススチールケースを採用し、独自性を高めている。

オーヴァーシーズ・トゥールビヨン
オーヴァーシーズ・トゥールビヨン
ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」Ref.6000V/110A-B544
搭載される自動巻きのキャリバー2160はペリフェラルローターを搭載しており、これにより自動巻きながらキャリッジの窓に干渉することがない。「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」。自動巻き(Cal.2160)。30石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径42.5mm)。5気圧防水。要価格問い合わせ。(問)ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755

毎年のように機械式時計の世界最薄記録を打ち立てるブルガリの「フィニッシモ」コレクション。4つ目の「オクト フィニッシモ トゥールビヨン オートマティック」(ケース厚3.95mm)に続き、6つ目の世界記録となったのが、2020年に登場した「オクト フィニッシモ トゥールビヨン クロノグラフ スケルトン クロノグラフ」である。388点もの部品で構成されるCal.BVL388はムーブメント厚3.5mmという驚きのサイズを実現。単に薄さを追求するのではなく、装着感もよく、使い勝手にも配慮。さらにはフィニッシモらしい美しさを兼ね備えた逸品である。

ブルガリ「オクト フィニッシモ トゥールビヨン クロノグラフ スケルトン クロノグラフ」Ref.103510
トゥールビヨンとクロノグラフ機構を備えた、自社開発の極薄手巻きムーブメントCal.BVL388を搭載したモデル。ふたつの複雑機構を搭載しながら、ムーブメント厚は3.5mmに仕上げている。手巻き(Cal.BVL388)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約52時間。Ptケース(直径43mm)。30m防水。世界限定50本。要価格問い合わせ。(問)ブルガリ ジャパン Tel.03-6362-0100 

また、1000万円超は珍しくないトゥールビヨン機構搭載モデルで、300万円台の価格を実現したのがタグ・ホイヤーの「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ トゥールビヨン」である。カーボンコンポジット製のヒゲゼンマイを採用していることが、大きな特徴だ。カーボンコンポジットとは、軽量で高強度、また重力や衝撃の影響を受けないという特性を持ち、非金属性のため完全な耐磁性能をも備えた素材だ。精度も高く、C.O.S.C公認クロノメーターを取得している。

タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ トゥールビヨン」Ref.CBS5010.FC6543
2023年に登場した、新しい「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ トゥールビヨン」。“グラスボックス”と称される、1970年代の「カレラ」に用いられたヘサライトガラスからインスピレーションを得たサファイアクリスタル風防が特徴だ。自動巻き(Cal.TH20-09)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径42mm)。100m防水。300万3000円(税込み)。(問)LVMH ウォッチ・ジュエリージャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7054

さらにブレゲで欠かせないトゥールビヨンモデルがある。新世代のトゥールビヨンとして2006年に発表した、ふたつの香箱とふたつのトゥールビヨンを載せた土台が、12時間で1回転する「クラシック ダブルトゥールビヨン 5347」。搭載されるCal.588Nは、いくつもの特許を取得して完成しており、このため現時点で他社が同様のトゥールビヨンを製作しようとしても叶わない。まさにブレゲ唯一のトゥールビヨンである。本記事で紹介する「クラシック ダブルトゥールビヨン 5345 ケ・ド・ロルロージュ」は、2020年9月に発表されたモデルで、このクラシック ダブルトゥールビヨン 5347から文字盤を外してスケルトナイズ加工を施したものだ。技術面に加えて、その美しさから凄みすら感じさせるモデルである。

クラシック ダブルトゥールビヨン 5345 ケ・ド・ロルロージュ
クラシック ダブルトゥールビヨン 5345 ケ・ド・ロルロージュ
ブレゲ「クラシック ダブルトゥールビヨン 5345 ケ・ド・ロルロージュ」Ref.5345PT/1S/7XU
ブレゲ製トゥールビヨンの最高峰である「Cal.588N」に対し、すべてにおいて“魅せる”加工を施し、機能・審美の両面で最上のモデルに仕上げた。ふたつのトゥールビヨンに対するのは、Breguetのロゴ「B」がブリッジとなった香箱だ。モデル名のケ・ド・ロルロージュはアブラアン-ルイ・ブレゲが工房を置いた地名からとられており、ケースバックには当時の工房の様子が彫金されている。「クラシック ダブルトゥールビヨン 5345 ケ・ド・ロルロージュ」。手巻き(Cal.588N)。81石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約50時間。Ptケース(直径46mm、厚さ16.8mm)。30m防水。要価格問い合わせ。(問)ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211


現行モデルで繰り広げられる、トゥールビヨンの世界をのぞいてみよう

最後に、トゥールビヨンを搭載した現行モデルのうち、特筆すべき5本を紹介する。


ブレゲ「クラシック トゥールビヨン 5395」Ref.5395BR/1S/9WU

 ムーブメントの構造を明らかにしたスケルトン仕様の薄型ドレスウォッチ。地板と受けは極限まで削ぎ落され、手作業による面取りが施されている。1時位置の香箱と対称的に配されたトゥールビヨンは、チタン製キャリッジ全体を回転させるカナを介さず、輪列に直結され、特徴的な形状のシリコン製脱進機によって省スペース化を果たしている。

 リング状のダイアルはサファイアクリスタル製とすることで、ムーブメントの隅々まで鑑賞可能だ。プリントされたローマンインデックスと18Kゴールド製のアプライドインデックスを採用することによって、十分な視認性が確保されている。

 ムーブメントの鑑賞性を高める工夫は、裏側にも見て取れる。本作では外周式のペリフェラルローターを搭載することによって、輪列を覆い隠すことなく自動巻き機構を加えているのだ。

 「クラシック」コレクションらしく、薄くエレガントなケースを採用する。真っすぐに伸びたラグやコインエッジ装飾が施されたケースサイドは、ブレゲを象徴するデザインだ。

ブレゲ「クラシック トゥールビヨン 5395」Ref.5395BR/1S/9WU

ブレゲ「クラシック トゥールビヨン 5395」Ref.5395BR/1S/9WU
自動巻き(Cal.581SQ)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KRGケース(直径41mm、厚さ7.7mm)。30m防水。3995万2000円(税込み)。(問)ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211


ローラン・フェリエ「グランドスポーツ・トゥールビヨン パシュート」Ref.LCF044.T1.RN1

 モーターレースの世界観を取り入れた、ローラン・フェリエのスポーティウォッチ。同社の創業者であるローラン・フェリエとフランソワ・セルヴァンがこれまで幾度も参戦してきた、ル・マン24時間レースにオマージュを捧げる作品だ。

 6時位置に大型のスモールセコンドを配したダイアルは、濃淡のつけられたサーモンピンクカラーに仕上げられている。この色味は、夜明けのサーキットを照らす朝焼けに着想を得たものだ。同社を象徴する槍型の時分針とインデックスを組み合わせている。

 トゥールビヨンウォッチの多くはダイアル側からその機構を鑑賞できるよう、オープンワークを施されていることが多いが、本作ではケースバックからのみ、トゥールビヨンを見ることができる。向かい合うように配されたふたつのヒゲゼンマイや職人の手作業による面取りなど、多くの見どころが盛り込まれている。

 滑らかな曲線で構成されたケースとブレスレットは、グレード5チタン製だ。サテン仕上げをメインとして、一部にポリッシュを施すことで躍動感あるデザインに仕上げている。

ローラン・フェリエ「グランドスポーツ・トゥールビヨン パシュート」Ref.LCF044.T1.RN1
手巻き(Cal.LF619.01)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。Tiケース(直径44mm、厚さ13.4mm)。100m防水。3179万円(税込み)。(問)スイスプライムブランズ Tel.03-6226-4650


オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン オープンワーク」Ref.26735SG.OO.1320SG.01

 オーデマ ピゲを代表する「ロイヤル オーク」に追加された、トゥールビヨン搭載モデル。大胆にスケルトナイズされたシンメトリーなデザインのムーブメントが魅力のスケルトンウォッチだ。

 6時位置には上部のブリッジを廃し、浮遊しているような視覚効果を持つフライングトゥールビヨンが搭載され、その迫力ある動きを楽しむことができる。ムーブメントは多層構造を採用しており、その奥行きがもたらす立体感も本作の特徴のひとつだ。

 ケースとブレスレットに採用されているのは、同社が新開発した18Kゴールド素材、サンドゴールドだ。この素材が採用されたのは、本作が初めてである。ホワイトゴールドとピンクゴールドの中間の色を示し、経年による色味の変化に強いという特性を持つ。また、素材の特性に加え、表面に施された仕上げによって、光の当たり具合で様々な表情を見せる。フランジや地板、ブリッジも同じカラーリングに仕上げられており、統一感のある印象だ。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン オープンワーク

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン オープンワーク」Ref.26735SG.OO.1320SG.01
自動巻き(Cal.2972)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約65時間。18Kサンドゴールドケース(直径41mm、厚さ10.6mm)。50m防水。要価格問い合わせ。


タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ トゥールビヨン クロノグラフ」Ref.CBS5011.FC6566

 サーキュラーサテン仕上げの鮮やかなティールグリーンダイアルを採用した、「タグ・ホイヤー カレラ トゥールビヨン クロノグラフ」。6時位置に開口部を設け、トゥールビヨンを覗かせている。

 全体のデザインは、現行のカレラコレクションに則ったものだ。シャープなラグやポンプ型のプッシャー、バータイプのインデックスがすっきりとした印象を与え、大きく盛り上がったグラスボックス型のサファイアクリスタルが、クラシカルにまとめている。3時位置の30分積算計と9時位置の12時間積算計にはレコード状の溝が刻まれ、光の反射を抑え視認性を高める。ベルトは、フォールディングバックルが付属したブラックのアリゲーターレザー製。

 ムーブメントは、約65時間のパワーリザーブを備えた機械式自動巻きのCal.TH20-09を搭載する。自動巻きローターやストライプ装飾が施された受けは、ケースバックから鑑賞することが可能。

タグ・ホイヤー 新作 カレラ クロノグラフ

タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ トゥールビヨン クロノグラフ」Ref.CBS5011.FC6566
自動巻き(Cal.TH20-09)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径42mm、厚さ14.3mm)。100m防水。301万9500円(税込み)。(問)LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7030


グランドセイコー「Kodo」Ref.SLGT005

 グランドセイコー「Kodo」は、心臓の“鼓動”から名付けられたコンプリケーションウォッチだ。その由来が示す通り、独創的な機構が生み出す音色と動きは、時計に対してまるで生きているかのような表情を与える。

 搭載するCal.9ST1は、テンプに対して動力を均等に供給するコンスタントフォース機構とトゥールビヨンを同軸に一体化した世界初のムーブメントだ。このふたつの機構はそれぞれ異なるリズムを刻み、独特の鼓動を生んでいる。シンメトリーなデザインのムーブメントには立体的なオープンワークが施され、差し込んだ光がもたらす陰影が豊かな表情をもたらす。

 ケース素材には、プラチナとブリリアントハードチタンを採用。グランドセイコーが得意とするザラツ研磨によって、歪みの無い面が与えられている。

 前作の「SLGT003」では宵闇をイメージしたダークな色調に統一されていたが、本作では夜明け前の淡い薄明りをモチーフとして、明るいトーンでまとめられている。

グランドセイコー「Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン」Ref.SLGT005
手巻き(Cal.9ST1)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。Pt×ブリリアントハードチタンケース(直径43.8mm、厚さ12.9mm)。10気圧防水。世界限定20本。4950万円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617


トゥールビヨンの機構を楽しむ

トゥールビヨンは腕時計が市販されるより100年ほども前に、高精度な携帯式時計のために発明された複雑機構だ。

現在では各部品の高性能化もあり、機構が誕生した当時のようなトゥールビヨンの必要性は薄れているが、機械式時計の魅力のひとつとして、卓越した技術と美観を兼ね備えた時計史に輝く象徴的な機構であることに変わりはない。

トゥールビヨンモデルの低価格化も進み、手に入りやすいモデルも存在する。機械式時計を愛好するならば、トゥールビヨンの美しい動作を直に感じてみてはいかがだろうか。


ブレゲ トゥールビヨン傑作選

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